家族に責任 憤りの声 認知症男性事故判決 「部屋に閉じ込めるしかないのか」

2014/04/26

朝日新聞 2014年4月25日

認知症の男性がなくなった列車事故で、家族の責任が問われた訴訟。名古屋高裁は一審に続き、介護にあたっていた高齢の妻に賠償を命じた。福祉関係者は「在宅介護に及び腰になりかねない」と心配する。認知症高齢者の増加が見込まれる中、こうした事故時に社会的な支えが必要との声も上がっている。

65歳以上の約7人に1人と、認知症の人の数は急増し、2012年時点の推計で約462万人に達する。認知症の介護は誰にとってもひとごとではない。「閉じ込めるしかないのか」。判決を受け、家族からは切実な声が上がる。介護する事業所にも波紋が広がる。

この日、裁判を傍聴していた「認知症の人と家族の会」(本部・京都市)の高見代表理事は強い口調で、「とても承服できない判決だ。『家族に責任がある』とだめ押しされた」と語った。賠償責任を問われたのは妻だけになったが、「介護者に責任を負わせる内容は変わっていない」と批判した。この判決が前例となって、裁判で責任を問われる介護家族が増えるのではないかと危機感を募らせる。「24時間、一瞬の隙もなく家族が見守ることは不可能。それでも徘徊を防げと言われたら、鍵つきの部屋に閉じ込めるしかなくなってしまう」。高見さんは同時に、徘徊などで生じた損害をどう賠償するかも考えなければいけないと訴える。「個別に責任を負わせないよう、社会的に損害を補償する仕組みを作らないといけない」

少人数の家族的なケアを目指し、認知症ケアの切り札と呼ばれるグループホーム。全国に約1万2千カ所あり、その介護関係者からも懸念の声があがる。福島県認知症グループホーム協議会会長の森さんは。施設などに預けたいという家族の要望が強まるのではないか、と心配する。

判決は家族の監督責任を問題にしたが、同じ理屈で介護事業者が責任を問われるのでは、という懸念もある。あるグループホームの責任者は、「『本人の気持ち』と『事業者としての責任」の間で、どうしたらいいのか悩む」と打ち明ける。