
朝日新聞 2018年9月12日
聞こえに問題がある子どもたちへの支援が広がっている。適切な検査で早めに見つけ、学ぶ環境を整えることが大切だが、専門家の不足などの課題も多い。
赤ちゃんの時に聴覚の異常を調べる新生児聴覚スクリーニング検査(NHS)を受け、軽度の難聴がわかった女児(9)は、補聴器を装着し、会話のやりとりにほとんど支障がない。女児の母親は「補聴器をつけると娘の反応がまるで変わり、明るく育ってくれた」と話す。厚生労働省研究班が12年に出した報告書では、生後9ヶ月以内に補聴器をつけた難聴児は、そうでない子にくらべて優位に言語能力が高かった。単に音が大きく聞こえるのではなく、コミュニケーション能力が大きく発達するという。
難聴の疑いは、主にNHSでわかる。日本産婦人科医会の17年の調査では、NHSは全国1979医療機関の9割超が可能と回答。ただ、費用が数千円かかり、公的保険が適用されない。厚労省は公費補助を自治体に求めているが、補助のない自治体も少なくない。さらに、精密検査を受けたくても専門性の高い医師が不足する地域もある。難聴と診断されれば、補聴器装用、療育が必要だが、行政・医療機関・療育機関などが連携して支援する態勢がない都道府県もある。九州大学の中川尚志教授(耳鼻咽喉科)は「耳鼻科の専門医や言語聴覚士などの人材育成も進め、支援から漏れる子どもを減らす必要がある」と指摘する。
軽度・中等度難聴児向けの補聴器購入助成制度は全ての都道府県と指定市にできている。全国で昨年度、2千人超が助成を受けたとみられる。早めに補聴器をつけて教育や訓練を受ければ、言語能力が発達し、勉強の遅れを防げる。