障害者差別禁止法案 「合理的配慮」広く求める

2012/10/11

2012年10月11日 東京新聞

当事者も加わり、障害者差別禁止法への提言について協議した担当部会=内閣府で

障害を理由にした差別の解消を目指し、政府が来年、通常国会に提出する予定の「障害者差別禁止法」案。法案の参考にする内閣府担当部会の提言が9月にまとまった。提言は「障害に応じた合理的配慮をしないこと」などを差別と定義。同法は差別の「物差し」になり、差別の解消や差別による損害の回復を求める法的根拠となる。 (佐橋大)
重度障害者の積極的な社会参加に努める名古屋市昭和区の社会福祉法人「AJU自立の家」。精神障害者が使う施設の建設を計画したが、住民の反対で何度も断念してきた。山田昭義常務理事は「まだ差別は根強くある。精神障害への誤解や偏見、それに基づく不当な扱いが、障害者の社会生活を阻んでいる」と指摘する。
大阪府のNPO法人、大阪精神医療人権センターによると、府内でも二年前、精神障害者のグループホーム建設に地元自治会が反対し、入居者のカルテの公開などの条件を出してきた。また同年、全国で賃貸アパートの管理などをする会社が、退去条項に「精神障害者」を掲げていることが分かり、会社が障害者団体に謝罪する事態も起きた。
憲法は「法の下の平等」を定め、障害者基本法は、障害を理由にした差別を禁止している。ただし、いずれも抽象的で、どの行為が差別かの規定がない。部会のメンバーでもある池原毅和弁護士によると、法的な根拠が不明確なため、裁判所に救済を求めるハードルが高いという。
差別禁止法は、何が差別に当たるかの「物差し」だ。その大枠として提言は、差別を合理的配慮の欠如のほか、「障害や障害に関連する事柄を理由に、障害のない人と異なる扱いをする」などと規定する。具体例として、「精神障害者は原則、飛行機に搭乗できない」といった航空会社の規定や、建物入り口の段差にスロープを設けない、車いす利用者というだけで入店を断る-といったケースを挙げている。
提言によると、就業規則で一律にマイカー通勤を禁止することで、公共交通機関を使った通勤ができない障害者を事実上、排除してしまうのも差別に該当。教育分野では、正当な理由があり、やむを得ない場合を除き、障害を理由に地域の学校への入学を拒否することを差別とした。
合理的配慮の例として、パニック障害がある従業員に満員電車を避けるため勤務時間を変更する、視覚障害のある従業員が使うパソコンに、音声読み上げソフトを導入する-などを挙げる。選挙、司法手続き、医療など、さまざまな場面で配慮を求めている。
こうした配慮に必要な経費は、施設や事業主の負担となる。提言では、行き過ぎた負担が生じる場合は「配慮を義務付けないことが適当」とした。負担が行き過ぎかの判断基準として、関係事業者の代表らを交え、政府がガイドラインをつくる。
池原弁護士は「医療分野では医療機関、労働分野では経済界からの抵抗が予想され、内閣府以外の省庁の抵抗も考えられる。提言がずたずたにされる可能性がある。法案、ガイドラインの作成の段階で、どこまで理念が持ちこたえられるかがポイント」と指摘する。
提言では、裁判とは別に、調停などで素早く紛争を解決する仕組みを、少なくとも都道府県ごとに整備するべきだと指摘している。
◆権利条約批准目指す
政府が差別禁止法案を作るのは、2006年に国連で採択した障害者権利条約の批准を、日本が目指しているためだ。批准は条約への拘束を国家が決める手続き。中国など百以上の国が批准している。
条約は障害者を権利の主体と捉え、障害者差別の禁止などを締約国に義務付ける。批准には条約に沿った国内法の整備が必要。政府は、昨年8月に障害者基本法を、今年6月には障害者自立支援法を相次いで改正。差別禁止法の制定が残された課題となっている。
1990年代以降、欧米で障害者差別を禁止する法律の整備が進み、西洋先進国では、こうした法律は当たり前になっている。韓国も2007年、同様の法律を制定した。