
発達障害 厳罰に反発 各地の弁護士会など
2012年8月20日 朝日新聞
姉を殺害した40代のアスペルガー症候群の男性被告に対し、大阪地裁の裁判員裁判で言い渡された判決に反発が広がっている。罪を犯した発達障害者は隔離すべき存在なのか。
男性被告(42)に判決があったのは7月30日。市民から選ばれた裁判員6人と裁判官3人が初公判からの6日間で導き出したのは、検察の求刑(懲役16年)を上回る懲役20年だった。
「耳を疑うような衝撃的な判決」。日本社会福祉士会、日本自閉症協会などすくなくとも10近くの団体と日本弁護士連合会や各地の弁護士会が抗議を表明した。
判決によると、被告は小学校5年のころから不登校となり、自宅に引きこもっていた。姉(当時46)から自立を求められたのを「復讐」と受け止め、殺害を計画。昨年7月25日、大阪市の自宅で、腹や腕を包丁で何度も刺して殺害した。
被告は逮捕後、アスペルガー症候群と初めて診断された。被告側は「殺意に至ったのは障害の影響」として保護観察付の執行猶予の判決を求めていた。
各団体が猛烈に反発するのは判決理由の文言だ。
「アスペルガー症候群に対応できる受け皿が何ら用意されていない。再犯のおそれが強く心配され、許される限り、刑務所への長期収容が必要」とある。
声明を出した日本発達障害ネットワークの市川宏伸理事長は「正しい理解がないために、治らない、犯罪に結びつきやすいと思われている」と批判する。
児童精神科医の佐々木正美・河崎医療福祉大学特任教授によると、発達障害は、障害の特性を分かってもらえずに傷つき、被害者意識や攻撃性が高まることがあるが、犯罪や反社会的行為に直結するものではない。本来は、ルールを守るまじめな人が多いという。刑務所には薬物や性犯罪の矯正教育プログラムはあるが、発達障害に特化したものはない。佐々木特任教授は「社会に発達障害の理解がまだ広がっていないことを改めて実感した」と話す。被告側は判決を不服として控訴している。(有近隆史、並木昌広)
社会復帰へ施設橋渡し
罪を犯した障害者の受け皿はどうなっているのか。
厚生労働省は2009年、刑務所や少年院といった矯正施設から退所する障害者や高齢者を、入所施設やグループホームなどにつなぐ事業を始めた。受け入れ先を探す「地域生活定着支援センター」は今年3月までに全都道府県にでき、10年度は261件の受け入れ先が見つかった。発達障害者も対象となっている。
長崎県の島原半島にある雲仙岳。そのふもとのアパートで、かつて万引きを繰り返した広範性発達障害の男性(24)が、社会福祉法人「南高愛隣会」(長崎県雲仙市)のサポートを受けながら暮らしている。
男性は19歳のときから少年院で1年余を過ごした。
コミュニケーションが苦手で、小中学校の時に友だちと話をした記憶がほとんどない。中学卒業後、服飾専門学校に進んだが、数週間で通わなくなり、引きこもって、むしゃくしゃするだびに万引きに走った。父親は同居を拒み、南高愛隣会が08年に受け入れた。
日中は、鶏舎の掃除や農作業、夜は障害者4、5日んと職員で住むケアホームで、食事や掃除、洗濯などを通し生活訓練をした。小学生の時に亡くなった母親の思い出話を職員としたのをきっかけに、会話も少しずつできるようになった。
男性は4月から、雲仙市内の食品加工会社に勤めている。「自動車免許取得と結婚が今の夢」と語る。
南高愛隣会は、地域生活定着支援センターも関連団体で運営する。再び罪を犯す人もいるが、約150人を支援してきた。
重度知的障害者の入所施設を運営する国立のぞみの園(群馬県高崎市)は昨年、全国の知的障害者らの入所施設を調査。62施設が罪を犯した障害者の受け入れ経験があった。南高愛隣会の田島良昭理事長は「社会復帰につなげる動きは急ピッチで進んでいる」と話す(太田康夫)





