骨抜きにされた自立支援法見直し 佐藤久夫(日本事業大学教授 障害者福祉論)【朝日新聞】

2012/05/24

朝日新聞 2012年6月24日 朝刊

政府が3月に国会に提出した「障害者総合支援法案」が審議中だ。
 私は政府の「障がい者制度改革推進会議」のもとに設置された作業部会の部会長を務め、約1年半、18回の会合で法案への提言をまとめた。障害者と家族、事業者、自治体などの立場を超えて合意したものだ。その内容は、支援対象をすべての障害者とする○支援の必要度合いを示すとされる「障害程度区分」を廃止し、本人のニーズにあったサービスにする○利用者負担は原則無償とする、など60項目に及ぶ。障害者を保護する対象ではなく、権利の主体であるとし、地域で他の人と平等に生活するための必要な支援を示している。
 しかし、法案にほぼ盛り込まれたのは「共生社会の実現を目指す」という「法の目的と理念」だけ。障害の範囲に難病が加わったものの、支援を受けられない谷間は残るなど、21項目が不十分ながら取り上げられ、それ以外は全く触れられていない。小宮山洋子厚生労働相は「(提言実現への)第一歩だ」と言うが、どういう方向に行こうとしているのか、法案からは見えない。
 2006年施行の障害者自立支援法は、「サービス利用に応じて利用者にも負担してもらう」という考えだったが、実情は収入がほとんどない障害者が多く、悲鳴が上がった。マスコミも含めて反対意見が相次ぎ、違憲訴訟も全国各地で起きた。
 民主党は09年の総選挙で「現行法を廃止し新法を制定する」とマニフェストに掲げた。新政権は新法を作ると約束して裁判をやめさせた。障害者に寄り添う姿勢は政権交代の大きな原動力になったのではないか。
 我々も最大限の努力をして提言をまとめても、こういう法案しか出てこないことに徒労感を覚える。民主党は「ねじれ国会」を理由に「国会で否決されるような法案を出すわけにはいかない」と言うが、本当にそうか。野党の賛成が見込めないないなら国民の目の前で議論して、どちらが障害者求めているものなのか、はっきりさせれば良いではないか。
 先月、和歌山市に対し、筋委縮性側索硬化症(ALS)の男性(75)に1日21時間の介護を義務づける判決が出た。男性は人工呼吸器をつけながら必死に生きている。74歳の妻は歩行も不自由だが、睡眠以外の時間は介護に充ててきた。
 我々は、このように裁判に訴えなくても必要な支援がなされ、障害者も家族も安心して暮らせるようにとの願いで、提言を作った。
 障害者は社会に参加して貢献し、胸を張って行きたいと考えている。そのために必要な支援は何か、自らのプライバシーをさらして法廷や社会に訴えてきている。理解が広がり、社会と障害者の距離が変わってほしいと願っている。障害者も含めてみんなが参加し支え合う共生社会こそが、大震災から再生する日本社会ではないか。