重い障害の男児 小学校へ

2015/04/10

毎日新聞 2015年3月27日

 重い染色体異常の一つ、18トリソミーで生まれた東京都新宿区の松本虎大(とらひろ)君(6)が4月、養護学校に入学する。18トリソミーは心臓病などを伴い、小学生になるまで成長できるのはわずかだ。両親や周囲の人々は、大きな一歩に期待を寄せる。

 虎大君は、立ったり話したりすることはできないが、次第に表情や仕草で気持ちを表そうとするようになった。母直子さん(45)に抱かれ、「いい気分?」と話しかけられると、握った右手を自分のあごにトントンと当てた。「YES」という意味だ。

 虎大君の障害が分かったのは、妊娠8ヵ月の時だった。それまでの経過は大きな問題がなく、父哲(あきら)さん(45)は「頭が真っ白になった」と振り返る。出産前には、医師から「どこまで蘇生しますか」と確認され、すぐ亡くなってしまう可能性もあったため「呼んであげられるように名前を決めておいて下さい」と言われた。重い心臓病を抱えていて先が見えない中、毎日新生児集中治療室に通い、いつもこれが最後になるかもしれないと思って写真を撮ったという。

 3ヵ月がたち、退院できた。親子3人で並んで寝たり、散歩したりという両親の小さな夢がかなった。2歳になって間もなく、風邪がもとで一時、深刻な状況に陥ったことがある。その後直子さんは「今やれることをやらなきゃダメだ」と思い、沖縄旅行を決意した。家族のあり方をテーマにしたドキュメンタリー映画「うまれる」シリーズにも出演し、18トリソミーの子を持つ親の会では、思いを共有する仲間ができ、子どもが亡くなった家族とも交流を続けている。

 主治医の岩崎博之・東大助教(小児神経)も、様々な挑戦を後押ししてきた。「いつ体調が変わるか分からないからこそ、家族で過ごす一日一日を濃いものにして、楽しんでほしい」と語る。

 18トリソミーは、妊娠中や出産直後に亡くなるケースも多く、同病院で2000~09年に診断を受けた37人のうち、生まれたのは15人、1年以上の生存率は33%だった。長く生きられる例は増えているが、小学校入学まで過ごせるのは「数%ではないか」と岩崎医師は推測する。

 入学する新宿区立新宿養護学校(佐藤政明校長)では、常駐する看護師が毎朝児童生徒約30人の健康状態を確認する。スクールバスで通う子が多いが、虎大君は体への負担を考え、両親が車で送迎する。当面は週2~3回ほどの通学になりそうだ。

 同行に18トリソミーの子が入るのは初めてで、活動や体調急変時の対応は話し合って決めていく。教諭らは「元気に通って、楽しい経験をしてほしい」と入学を待つ。新入生は虎大君を含め4人の予定だ。

 18トリソミーは、今後臨床研究が始まる着床前スクリーニングでは妊娠前の段階でも検査を可能にする動きが進みつつある。こうした検査を受け、出産をあきらめる人もいる。直子さんは「できるだけ健康な子を、と望むのは普通のこと」」と理解を示す。哲さんも「不安を抱えて妊娠生活を送るよりは、検査を受けるのも一つ」と話し、「ただ、生まれてきた時に育てられるかどうかについては、心配しなくて大丈夫だと思う」と言葉を継ぐ。

 直子さんは虎大君のことを「短い人生を全力疾走している」と思ってきたが、次第に速さは緩やかになってきたと感じる。「長距離ランナーになってね」と腕の中の我が子をやさしく抱きしめた。