手話で案内するツアーコンダクター 片桐幸一さん(35)

2014/12/06

朝日新聞 (ひと欄)2014年12月6日

 「年末年始にバリ島で現地の友達に会いたい」。聴覚障害の男性が手話で海外でのガイドの手配を訴えていた。現地ガイドは日本語を話せても、字が書けず対応できないケースが多く、複数の旅行会社から断られていた。手話で「筆談の現地ガイドを手配します」と説明すると、男性は安心した様子で申し込みをすませた。

 格安旅行会社「エイチ・アイ・エス」で初めての手話添乗員。2002年に入社し、60以上の聴覚障害者の旅行に添乗してきた。

 自身も難聴で、生まれつき耳が聞こえない。聴覚障害の両親とは身ぶりで会話し、祖母から発音を覚えた。口の動きを読み取って手話に訳す。

 若い頃は社会福祉士を目指していた。転機は大学2年のときに出かけた韓国旅行だ。「1人で旅行ができて自信につながった」ことを機に、旅行会社に飛び込んだ。

 08年に手話で観光案内をする「しゅわ旅なかま」を始めた。聴覚障害者向けにお遍路巡りや海外のろう学校交流ツアーなどの団体旅行や個人旅行を次々に企画、好評を博している。

 「出発前に見どころを紹介する」「手話より景観を見てほしいので、説明は少なめにする」。ツアーの随所に障害を持つ者ならではの心遣いがあふれる。「旅立ちをそっとあと押しして、聴覚障碍者の自信と自立につなげたい」