皆が笑えるノーマライゼーション

2026/06/20

朝日新聞 2026年5月30日

「週刊ヤングマガジン」(講談社)に連載中の漫画「ローワライ」が話題だ。主人公の大学生は聴覚障害があるろうあ者。聞こえる人と組んで漫才の道を進むストーリーだ。「ノーマライゼーション」の新しい形を、漫画を通して考えてみた。

手話を見た女性から障害をバカにされ、怒りをぶちまける主人公・平里。学生バイトの手話通訳者・嶋から、お笑い芸人になれば怒りも何もかも全部、人を笑わせるエネルギーになる、と誘われる。平里は「笑われるんは嫌や」「全員の口、開かせたる」と応じ、2人は漫才師として歩み始める。

障害者が主人公のドラマや作品は少なくないが、ともすれば障害は「感動」をいざなうための装置になりがちだ。著者・雪野朝哉さんは「平里はいかつい大学生。『聞こえないこと』が普通で、『当たり前』。等身大のひとりの人間として、日常をコメディーとして見せたい」と話す。親友の家族が聴覚障害者だった。アルバイトで聞こえにくい子どもと出会ったりする中で「自分たちなりに考え、工夫し、楽しく生きている。変に同情したり、過度にかまったりするのは失礼なこと」と思うようになった。

「漫画でできないものは何だろう」と考え、「どう頑張っても漫画から音は聞こえてこない」ことに着眼。「主人公も音が聞こえない設定にすれば、読者は主人公とよりリンクして読める」とひらめいた。

「ノーマライゼーション」とは、社会的マイノリティーがほかの人たちと同じように暮らせる社会をめざそうという理念だ。保護や支援のための特別な制度やサービスを作るのではなく、障害の有無にかかわらずだれもが暮らしやすい環境を作る方に主眼がある。

「ローワライ」は漫才と「聞こえない」を組み合わせ、漫画という2次元の中に、誰もが「笑える」世界を作り出した。雪野さんは「おカタい話でもヒューマンドラマでもなく、あくまでもコメディー。楽しく読めて、生活の中でプラスの気持ちになるための一部になれればうれしい」と連載を続ける。

お涙ちょうだいじゃないのがいい 監修 全日本ろうあ連盟
連盟の山根昭次さん₍70₎と兵頭毅さん(68)を訪ねた。ろう者や障害をマイナスと捉えていない点に感心したという。「ろう者ならではの笑いの個性が発揮できていて、聞こえない人も聞こえる人も楽しめる。それぞれの文化を融合させた漫画だと思った」「お涙ちょうだい、感動モノというところが全くない。人権もさらっと触れる、そこがいい」と話す。

手話は、ろうあ連盟が出している「わたしたちの手話 学習辞典」をもとに書いてもらうが、辞典に乗っていない言葉が出てくる。2人で相談し、動画にとって雪野さんに送っている。兵頭さんは、「わたしたちの年代だと、漫才や落語は『縁がないもの』だった。昔はテレビの字幕もなかったから内容がわからない、だから興味もわかなかった」という。時代は移り、漫才や演劇で手話通訳などをつける公演も増えてきた。若い世代は聞こえる人たちとの交流も多いという。「ローワライ」のフリップを使った漫才の場面も気に入っている。「聞こえないとか、聞こえるとかに関係なく漫才ができる。それが一番いい。新しい発想だ。とても期待している」