出生前検査 診断後の「支援」があってこそ

2026/06/02

朝日新聞 5月24日

妊婦の血液から胎児の染色体を調べる出生前検査(NIPT)の新たな臨床研究が2月から始まった。医療現場が考えるべき当事者や家族への支援とは。ダウン症の乳児とその両親を対象にした「集団外来」などに取り組む、埼玉県立小児医療センター遺伝科医長の大橋博文さんに聞いた。

集団外来は、1歳までの赤ちゃんを対象とした、月1回、半年間のプログラム。理学療法士や作業療法士、栄養士らが発達を促す運動や遊び、栄養などの情報を提供する。臨床心理士やソーシャルワーカー、看護師、遺伝カウンセラーらも協力して運営している。毎年60~80人の赤ちゃんとその親が参加している。ダウン症診断後の当事者や家族への支援が不足しているとの問題意識が出発点で、1989年に始まった。診断された後、どういうふうに育てたらよいのかと、不安と孤独の中にある家族は少なくない。当事者同士が集まり、安心して話せる場として、集団外来の意義は大きいと考えている。現在は、ダウン症以外の先天性疾患でも集団外来を運営している。

家族に「ほしかった情報」を尋ねたアンケートでは、「合併症」をあげた人は4割弱だったが、「発達」「育児」「療育」がそれぞれ8割に上った。日常の育児にかかわる情報が求められていると思う。

2月から、すべての染色体情報を調べる臨床研究が始まり、これまで対象だった3つの疾患以外に拡大する。不安を抱く妊婦さんは増えていく可能性がある。さらに今後、これが一般的な検査になっていけば、「受けておかなければいけない」「安心のために受けよう」という風潮が強まる可能性もある。親としてしっかり子どもを育てていく力があり、幸せを実感している家族の姿を見てきた。そうした家族のあり方が損なわれることはないのか、という懸念がある。また、対象疾患が認識されていく結果、多様性が重視されない社会を招く恐れはないのか、漠然とした不安感もある。

科学技術の進歩とともに、それに伴う「支援」が常に存在しないといけない。小児科医としては、技術の進歩よりも支援のための努力が常に上回るべきだ、と考える。その努力があってこそ、新たな技術を社会として受け入れられるのではないだろうか。

集団外来のような取り組みが、診療報酬によって十分に評価されることが必要だ。遺伝学の知識を持った医療従事者を増やす必要もある。遺伝学は「多様性」の学問であり、教育現場で広めていきたい。遺伝学の考え方でいえば、多様性はあって当たり前、いろんな人がいるのが前提だ。障害のある人の困難は、多くの人が抱える生活上の生きにくさを増幅する形であらわしている、という見方もできる。障がいのある人の困難に対応することは、この社会の多くの人の生きやすさにもつながる。こうした遺伝学の考え方を、幼いおさないときから段階的に学んでいく。科学技術が進む現代社会で必要なことだと思う。