失語症と11年 言葉と出合い直す日々

2025/12/01

朝日新聞 2025年8月9日

50歳の時交通事故で脳梗塞・失語症を発症した大阪府の梶彰子さん₍61₎は、7月福井市で開かれた失語症フェスティバルで体験をもとにした講談を披露した。

「目が覚めたら病院のベッドの上。頭も顔も両足も、全部骨がポッキポキのバッラバラ。おまけに心臓から血栓が飛んで。もう瀕死状態。それが私の失語症の始まり、始まり」

梶さんは大手生命保険会社の管理職だった。周囲からは「仕事せんでもいいやん」と言われたが、あきらめたくなかった。事故から2年後に復職したが現実は厳しかった。朝礼や会議の内容が分からない、単純な作業でも集中力が続かずミスを繰り返す。そんな自分が受け入れられなかった。「ちゃんと聞いてます?」「何言ってるかわからない」などと相手にされないことが続いた。静かな環境で簡潔にゆっくり話し、大事なことはメモに残してもらえれば理解できる。社内で失語症への理解を促そうと産業医に講話をしてもらったり、ポスターを掲示してもらったりもした。変化はあり、少しずつ連帯が広がっていくことがうれしかった。

そんななか、出合ったのが朗読だった。数人で場面の情景や登場人物の心情について語り合いながら読み進めていく。セリフに思いを乗せ、物語に没入することで、言葉が自然と口をついて出るようになった。楽しむことで言葉が自分のものになっていく感覚を知った。「とにかくしゃべらなきゃ」と必死で、相手の話をしっかり聞く余裕がなかったことにも気づいた。いまでは一番言いたいことだけを伝えるようにしている。

一方、ある程度話せることによる誤解もある。会ったばかりの人には、「失語症には見えない」と言われることも多い。頭をフル回転させて言葉を探していることも知ってほしい。

言葉に日々向き合うなかで、「言葉に興味が出てきた」。その場で出てこなくても、自分の気持ちを表す言葉は何か考えるようになり、しっくりくる言葉が見つかった時の喜びは、経験したことのないものだった。「言葉と出合い直しています」

失語症フェスでは、こう語った。「言葉は心の中に生きています。声に出して、思いを込めて、相手を信じて伝えたら、ちゃんと届く」