当事者の声 生かすには 障害者を政策決定の場に

2025/06/24

朝日新聞 2025年6月19日

藤井克徳さん(日本障害者協議会)
 

 認定NPO法人「日本障害者協議会」には約60団体が加盟、障害のある人とない人が平等な社会を目指している。そのためには、障害のある人の意思を政策に生かすことが不可欠だ。
 「私たち抜きで私たちのことを決めないで」ということばは、2006年国連総会で採択された「障碍者権利条約」の制定過程で国際NGOの障害者らが繰り返し口にし、広まった。条約の規定に、障害者の意思を政策作りや実施に生かす趣旨の文言が盛り込まれた。障害者の意思の尊重は条約を貫く考え方といえる。
 日本は2014年に条約を批准、徐々に国内法も整備されているが、「私たち抜きに私たちのことを決めないで」には遠く及ばない。2012年の国の調査では、国の審議会などへの参画状況は、障害者にその家族を加えても委員総数の1%に満たない。
 なぜ政策決定への参画が重要なのか。障害のある人が望むニーズを一番知っているのは当事者で、実感を伴うニーズを起点にしてこそ生きた政策になるはずだ。委員の選任、審議内容原案の作成など官僚主導のシステムを改めなければならない。障害者の意思が反映されにくい根幹にはパターナリズム(父権主義)があると感じる。誤った善意や障害者観、政策は官僚が作るものという上から目線の父権主義が岩盤のように横たわり、社会に潜む優性思想が透けて見える。
 障害者権利条約について日本政府の取り組みを審査した国連の障害者権利委員会は2022年、日本の法制や政策は父権主義的で、人権の視点が欠如している、当事者本意ではないと指摘した。
 日常的な支援のあり方も問われている。障害者を保護の対象から人権の主体としてみるギアチェンジが「私たち抜きで私たちのことを決めないで」への一歩となる。
 かつて国連は「一部の構成員を締め出す社会は弱く、もろい」と断じたが、障害者が政策の制定過程にかかわることは、誰もが生きやすい社会づくりにつながるはずだ。