御社の「お」が出てこない₍中₎ 9社目で告げた「私は吃音症」

2025/03/21

朝日新聞 2025年3月19日

時元康貴さん₍27₎は就職面接で吃音が出ると「緊張しなくて大丈夫」と声をかけられることも多かった。確かに緊張していると出やすいが、その日の「調子」としか言いようのないところもあった。5社連続で1次面接に落ちた後、大学の就職相談室に駆け込むと、「面接で吃音のことを伝えてみては」と提案された。迷った。「吃音者を採用したくない」と思われるのを嫌った。

一方で、精神障害者保健福祉手帳を取得する準備を始めた。企業には障害のある人を一定割合雇用する義務があり、障害のある学生が対象の求人情報を出すところもある。「選択肢が広がる」と考えた。志望先には障害者向けの求人はないところもあり、「一般採用で応募しているのに障害について話してよいのだろうか」と逡巡しているうち、さらに3社の面接も落ちた。これで腹をくくり、9社目の面接の最後に「私には吃音症という障害があります」と告げた。賭けみたいな気持ちだった。すると、面接担当者から「入社後、私たちはどんなサポートをしたらいいでしょうか}と質問が返ってきた。数日後、1次面接通過を知らせるメールが届き、「やった」と声が出た。

これを機に、書類や面接の冒頭で自ら吃音を伝えるようにした。説明は具体的にした。8連続の不採用から一転、4社連続で1次面接を通過した。2社から内定をもらい、研究内容を生かせそうな会社に決めた。

面接の場で吃音は最後まで出ていたが、時元さんは合否を分けた点を次のように分析。まず、面接の対応力自体が向上したこと。準備した文章をそのまま話すのでなく、要点を押さえ、その日の調子に合わせて組み立てる。データなど数字を使ってイメージしやすいように答える。「少ない言葉でわかりやすく伝えることに全力を注いだ」

そして、吃音について自分の言葉で伝えたこと。入社後の配慮について、特に知恵を絞った。例えば、「電話対応ななくしてほしい」より「メールを使わせてほしい」と、具体的にポジティブに伝えた。採用側は想像以上に柔軟だった。

春から新たな地で働き始める時元さんには二つの目標がある。一つは「困ったときに頼れる技術者になる」。もう一つは吃音者の自助グループ「言友会」での活動を続けることだ。10年前の自分のように孤独のトンネルの中にいる人が「また来たい」と思える場所をつくりたい。