₍けいざい+₎ 障害者と胡蝶蘭ビジネス:下 社員として雇用「三方良し」の輪

2025/03/10

朝日新聞 2025年2月27日

北九州市に昨年10月、胡蝶蘭を栽培するためのビニールハウス農園が建ち、2か月後、就労継続支援B型事業所(以下「就B」)がオープンした。就職が難しい知的障害者や精神障害者らがスキルを学びながら作業する。農園と「就B」を運営するNPO法人「AImowl(アイモール)ガーデン」の高城いづみ理事長は、家庭用浄水器大手の「タカギ」の社長でもある。福祉事業に関心があった高城理事長が、千葉県のNPO法人「AlonAlon(アロンアロン)」の胡蝶蘭ビジネスを知り、アロンアロン代表の那部智史さんに農園づくりのプロデュースを依頼した。現在、「就B」で10人の障害者が訓練中だ。農園長の前田さんは「職人に育ったら就職支援をしたい」と言う。

アロンアロンが企業から農園プロデュースを任されたのは、これで3例目だ。那部さんは胡蝶蘭を購入する大企業の一部に「もう買わないでください」と言い、代わりに「障害者を社員として雇用してください」と持ち掛けるようになった。企業によっては、胡蝶蘭の購入費が年間1千万円以上になることも。ならば農園の一部を企業に貸し、障害者を社員として雇ってもらう。障害者はアロンアロンに出向し、就Bで身につけたスキルで栽培を続ける。

企業に障害者を一定割合雇用するよう義務付ける「法定雇用率」は現在2.5%だが、達成企業は46%₍2024年₎と半分以下だ。アロンアロンと組むことで企業は法定雇用率を上げながら、胡蝶蘭の購入費を削減でき、障害者の就職もかなう「三方良し」のビジネスモデルだ。アロンアロンの農園で作業する38人の障害者のうち24人が就職でき、就職率は63%まで上がった。

帝人が設立した特例子会社「帝人ソレイユ」も当初はアロンアロンの貸農園で障害者を雇用していたが、自社栽培に切り替えたいと那部さんのプロデュースを依頼。「綾羽株式会社」も続いた。一方で障害者たちが企業から離れた場所で働く農園型の雇用に対しては、福祉関係者から「雇用率達成のための代行ビジネス」と批判する声もある。那部さんは「農園で障害者と担当者が定期的に面談している。胡蝶蘭を育て会社の利益に貢献しているという誇りが芽生え、自己肯定感も上がった」と語る。

「日本農副連携協会」の渡部淳総務部長は「障害者が経済社会の一員として自立していくことが大事。仕事に実態や収益性が伴うかも考える必要がある」と語る。