娘は対等 認められた 「障害あれな逸失利益減」発想覆した判決

2025/01/22

朝日新聞 2025年1月21日

障害を理由に当たり前のように「逸失利益」を減じる発想を改め、娘と、変わりゆく社会と向き合ってほしい――そんな遺族の訴えを大阪高裁判決は正面から受け止め、「減額」できるケースを限定した。識者は「一つの到達点」と評価した。

生まれつき重い難聴があった井出安優香さん₍当時11₎は毎日欠かさず自主勉強に参加、通信教育で使うタブレット端末は教わらなくても使いこなした。母親は「わたしの不安を安優香が全部解消してくれた」という。

この日の判決は「減額が許されるのは平均とすることに顕著な妨げがあるときに限られる」とまず判断基準を示し、その上で安優香さんの個性と社会の変化を踏まえた「将来の可能性」を見通し、「同額」との結論を導いた。

逸失利益が争点との報道を受け、支援したいという弁護士や専門家が相次ぎ、弁護団には最終的に約40人が名を連ねた。中心メンバーのうち5人は聴覚や視覚に障害がある。

重い難聴がある久保陽奈弁護士は、「私自身が『証拠』だと思ってやってきた」と話す。弁護士になりたての十数年前は補聴器のみが頼りだったが、今では音声認識アプリなどを活用することで、職場などの適切な配慮さえあれば支障なくなっているという。法廷では自ら意見陳述に立ち、様々な分野で働く14人の障害者の声を集めた陳述書も提出した。判決は、こうした「生の声」が健常者と変わらない働き方を具体的に示していると評価した。久保弁護士は「聞こえないことへの偏見で、多くの人が労働能力に影響があると考えているだろう。高裁ではそうではないと丁寧に説明・立証し、認めてもらった」と話した。

元裁判官の官の大島真一弁護士の話:判決は急速に変化する社会状況も反映し、社会が目指す平等を前面に押し出した。障害者は逸失利益を減額されるのが当たり前という「常識」を取り払った。特に減額できるケースを顕著な妨げとなる事由がある場合」に限定したことには大きな意義がある。今回の判決が新たな基準となり、平等の理念がより一般的になることを期待する」と語った。