

強制不妊生んだ 多くの「なぜ」検証を
朝日新聞 2025年1月17日
補償金支給法がきょう施行されるにあたり、全国障害者協議会代表の藤井克徳さん₍75₎に聞いた。
ようやくここまで来たと万感の思いだ。戦後最悪の人権侵害であり、障害者政策史上、最大の未解決問題である。当事者が勇気をもって提訴に踏み切ったことが、この日につながった。
今回の法律では、国の責任と謝罪を明記した点を評価する。過ちを繰り返さないための「検証」も盛り込まれ、旧法と地続きの今ある問題にも焦点を当て未来に向けて提言することに意義がある。新憲法制定にもかかわらずなぜ旧法が生まれたのか、なぜ48年も存在したのか、なぜ母体保護法に改正されたときに被害者に謝罪し補償しなかったのか、メディアや市民・障害者団体はどんな立場を取ったのか…。多くの「なぜ」を白日の下にさらし、検証と総括がなされてこそ、再発防止、差別・偏見のない障害者政策、自分らしく暮らせる共生社会の実現につながると思う。
検証体制には、自由な議論を担保する独立性が求められる。被害を受けた当事者も加わることが不可欠だ。検証したうえで、優性思想に基づく差別・偏見を根絶するための基本法が必要だ。全府省庁が連携して取り組むとともに、現行の関連法律が優性思想という観点から矛盾がないかチェックするための規範となるものだ。
国が2023年に公表した調査結果は、公的関与の実態が浮き彫りになるなど意義はあった。しかし、資料の羅列という側面が否めず、被害実態についてわからないことが多い。不妊手術を受けたのが2万5千人とされているが、発掘できていない被害者がいる可能性がある。徹底して調べ、実数に迫ることが必要だ。そのうえで、被害者全員に補償できてこそこの法律が実のあるものになるのではないか。
補償金支給法は一つの区切りであり、施行は旧法が残した爪痕の全面解決に向けた「第2ラウンド」の始まりだと思う。