救済阻む「時の壁」どう扱う 旧優生保護法強制不妊 明日最高裁判決

2024/07/04

朝日新聞2024年7月2日

旧優生保護法(1948~1996年)の下で不妊手術を強制された障害者らが国に損害賠償を求めた5件の訴訟で、最高裁大法廷が3日に判決を言い渡す。救済を阻んできた「時の壁」を司法はどう扱うのか。旧法が違憲とされれば、戦後最悪とされる人権侵害に国はどう向き合うのかも問われる。

「不良な子孫の出生を防止する」との目的が定められた旧法は、議員提案され衆参両院で全会一致で成立。母体保護法に改正された1996年までに、約2万5千件の手術が実施された。うち約1万6千件は本人の同意がなかった。

国は旧法と向き合う機会が何度もあった。1986年には「人道的にも問題があるのではないか」と法改正を検討。1994年には国連の国際人口開発会議で問題を指摘されていた。1996年の改正で、不妊手術に関する条項が削除されたが、国は謝罪や補償から逃げ続けてきた。

国会議員が動いたのは、被害者が声をあげてからだ。2018年、宮城県の女性が初めて国に賠償を求めて提訴。超党派の議員連盟と与党の作業部会が発足し、訴えが各地に広がる中、2019年には一律320万円を支給する一時金支給法を全会一致で成立させた。しかし、今年5月末時点で支給認定を受けた人は1110人。十分な救済にはほど遠い状況だ。支給額も「不十分だ」との声が出ている。最高裁で仮に違憲判決が出れば、これまで国が避けてきた原告らへの謝罪や面会が求められる。

裁判上の最大の焦点は「除斥期間」だ。原告らが手術を受けたのは半世紀以上前。一連の訴訟では旧法を違憲としながら、除斥期間を理由に賠償請求を退ける判決が続いた。2022年、大阪高裁が初めて「除斥期間の適用は著しく正義に反する」と判断。以降、同様の判決が続くようになった。最高裁が統一判断を示すことになる。

実は、除斥期間は法律に明記されておらず、最高裁判決によって確立した経緯がある。4年前に改正される前の民法は、不法行為に対する賠償請求権は「損害や加害者がわかった時点から3年間請求しなければ時効によって消滅する。不法行為から20年が過ぎた時も同様とする」と定めていた。最高裁は1989年の判決で「除斥期間と解釈すべきで、これを過ぎれば、裁判で被害者側がどんな事情を訴えても認める余地がない」との考えを示した。時効の場合、加害者に著しい悪質性があるなどの事情があれば、20年を過ぎても請求できるケースがあり得る。一方、除斥期間の考えは、例外なく20年で権利が完全消滅するという厳しいもので、学者からは猛烈な批判を受けた。だが、最高裁の法解釈は規範として強い力を持つため、多くの訴訟で「20年」が立ちふさがってきた。最高裁自身が、例外的に除斥期間を適用しないとしたのは過去2件だけだ。

現在の民法では、不法行為については除斥期間ではなく時効とすることが明記されたが、法改正前に20年が過ぎた原告らには適用されない。これほど重大な人権侵害で、最高裁は自ら打ち立てた「時の壁」をどう扱うのかが問われる。