語ろう きょうだい児の葛藤も愛情も ダウン症の弟と兄を描いた映画 公開中

2024/02/15

朝日新聞 2024年2月8日

ダウン症の弟との関わりを兄の視点から描いた映画「弟は僕のヒーロー」、昨年末に原作者のジャコモ・マッツアリオールさん(27)が来日し、日本のダウン症の男性、その兄と語り合った。

きっかけは、2015年3月21日「世界ダウン症の日」に公開した、弟を撮った5分間の動画だった。6歳年下の弟ジョバンニさんを撮影し、ダウン症の人の力を過小評価しがちな社会と、弟の魅力的な姿との対比を表現した。動画は大きな反響を呼び、翌年、ジョバンニさんと育った体験を元に書いた小説を出版。映画の原とになった。

映画の主人公は、両親、姉、妹、弟と暮らす。「弟のジョーは特別な子」と言われ、ヒーローと信じたが、成長とともに理解できない弟の言動を疎ましく感じるようになる。高校生になると、好意を抱いた女子生徒や同級生に弟の存在を知られたくないと感じ、「死んだ」とうそを言う。それが街を巻き込んだ大騒動に。少年の葛藤、自分の気持ちに正直な弟、支え合う家族の関係を描く。

昨年12月のトークで、ジャコモさんはきっかけとなった動画について、「社会の偏見を変え、弟の素晴らしさや能力を通じてダウン症を見てほしいとの思いを込めた」と語った。小説を書くことで「自分の中にも恥ずかしいという気持ちがあり、そこを変えれば新しい世界が広がると再認識できた」とも話した。

トークには「ダウン症のイケメン」として活動するあべけん太さん(36)と兄の安部俊和さん(42)も参加した。ジャコモさんがけん太さんに感想を聞くと、「ジョー君が頑張っている姿が素晴らしくてすごく泣きました」と話した。俊和さんは、けん太さんが一人暮らしに挑戦していることや、運転免許学科試験に54回落ちながらもパスしたエピソードなどを紹介、「周りから弟の障害を否定的に見られていると感じたら、僕も傷つき、恥ずかしく思っただろう。親や周囲が明るく堂々と接することが大事」と話した。

きっかけとなった動画は、小学館の動画チャンネル(https://www.youtube.com/watch?v=pzuW4IWxIgg)で公開中。

吉川かおり・明星大教授(障害学)によると、きょうだい児は困惑したり孤独を感じたりする場合がある。そういう感情を持つことに罪悪感を感じたり、自己肯定感が持ちにくい人、将来への不安を抱く人もいると指摘。

きょうだい児への支援は近年、交流の場が増えたり、専門家が対応する場ができるなど広がりを見せている。昨年末に閣議決定された「こども大綱」では「きょうだい児支援」が盛り込まれた。