奈緒ちゃんと家族の40年 障害のある少女の歩み 追う映画シリーズ

2023/09/17

朝日新聞 2023年9月1日

知的障害があり、激しいてんかん発作をくり返す、長くは生きられないだろうと言われた「奈緒ちゃん」。奈緒ちゃんと家族を40年以上撮り続けるドキュメンタリー映画。撮影開始当初9歳だった奈緒ちゃんは50歳に、39歳だった母・信子さんは80歳になった。シリーズは5作目の撮影が続いている。

奈緒ちゃんと両親、弟の4人家族の撮影が始まったのは1983年のお正月だった。奈緒ちゃんの叔父である伊勢真一監督(74)は、「元気に遊ぶ様子を記録に残そうと思って取り始めた」と振り返る。

幼いころ、両親は専門病院に通い、治療を続けた。障害児を育てる母親グループの活動、作業所「ぴぐれっと」の立ち上げ。2005年には奈緒さんはグループホームで暮らし始めた。そんな家族の歩みをカメラは追い続けた。

成人式までの12年間を記録した第1作「奈緒ちゃん」の公開は1995年。「ぴぐれっと」、「ありがとう」、「やさしくなあに」と、これまでに4作品が公開された。記録映画ではなく「記憶映画」だと監督は言う。子の成長と親の老い、親子や夫婦の葛藤。どんな家族にも思い当たる場面があちこちに出てくる。「観客は、自分の家族のことを思いながら見ているんだと思う」と考える監督にはスタッフと語り合ってきたことがある。「ありがちな福祉の映画にはしたくない」ということと、「ずっと撮り続ける映画に」ということ。「家族の物語は、終わることがない」から。

奈緒さんが50歳を迎えた今年7月14日、シリーズの特集上映会が横浜市内であった。信子さんは「大変なこともあったけど、いいことの方がたくさんあったと思えるようになった。奈緒のおかげで仲間ができ、いろいろな経験ができた。障害のことを隠さず、人とつながることが大事だなと思う」と振り返った。

第5作は来年の公開をめざす。監督が撮影を始めたきっかけは、信子さんが「終活」を始めたことだった。監督自身も今年6月、前立腺がんで入院した。いつまで撮り続けられるか、という思いもある。壁は資金だ。コロナ禍のダメージは大きかった。自主上映の場が激減し、主宰する個人プロダクションの経営も厳しい状況にある。今回初めて、制作・上映費のカンパを募る。金額に応じてエンドロールに名前を入れるなどの「お礼」も。年内に都内でシリーズの特集上映会を再び開催する予定。問い合わせは、いせフィルム(03・3406・9455、https://www.isefilm.com/)へ。