社説 強制不妊訴訟 政治で早期の救済を

2023/04/15

朝日新聞 2023年4月14日

責任逃れで裁判を引き延ばすのはもうやめて、被害者への謝罪と真の救済を急ぐときだ。

旧優生保護法下で障害や病気を理由に不妊手術を強いられた人たちが全国11地裁・支部で起こした裁判で、国に賠償を命じる判決が相次いでいる。初期の地裁判決では、旧法の違憲性は認めつつ、不法行為から20年経過すると賠償請求権が消える「除斥期間」を認めたものもあった。しかし昨年2月以降、八つの判決(四つは高裁)はいずれも除斥期間をそのまま適用すべきではないと判断し、1件を除き国に賠償を命じた。

優生思想に立って、特定の人の生殖機能を奪う非人道性や、被害を放置し続けた責任の重さに着目した判断が定着したといえる。除斥期間の適用を制限する判決はまれだが、「著しく正義・公平の理念に反する場合は制限できる」とした最高裁判例に沿ったものだ。

被害者が声を上げて社会問題化し、議員立法による一時金支給法が2019年に施行されたが、被害の深刻さを反映していないと指摘されている。一連の判決では、1人あたり1300万~1500万円の慰謝料が認められ、一時金320万円の不十分さを示している。また、支給法の前文には「我々は」「反省し」との文言はあるが、だれのどの責任かはあいまいにされた。

被害者が高齢になり、原告の死去も続いていて、全面解決へいま動かなければ、本当の救済に間に合わなくなる。原告団や支援団体は3月末、政府と国会に対し、裁判を和解で早期に決着させ、原告以外の被害者を含めた全面解決を図ることや、岸田首相らが被害者に直接、謝罪することなどを要請した。国側は控訴・上告を重ねているが、過ちを認めない姿勢にこそ厳しい目が注がれている。3月の大阪高裁判決は、国が旧法を認めない間は除斥期間を適用しないと述べ、広い救済の道を示した。

元ハンセン病患者の家族への賠償を国に命じた2019年の熊本地裁判決の際、政府が受け入れがたい点を声明で公表しつつ、控訴せず、保障法による政治解決がなされた例もある。強制不妊問題を「時の壁」で終わらせまい、とする司法のメッセージを受け止めるべきだ。