逸失利益 労働者平均の85% 大阪地裁判決

2023/03/19

朝日新聞 2023年2月28日

大阪市生野区で2018年、聴覚支援学校に通う井出安優香さん(当時11)が重機にはねられ死亡した事故をめぐり、両親らが運転手側に約6130万円の損害賠償を求めた訴訟で、大阪地裁は27日、約3770万円の支払いを命じる判決を言い渡した。

将来得られたはずの「逸失利益」をどう算定するかが焦点で、両親らは「健常者と同水準」と訴え、被告側は「全労働者の平均賃金の6割」と反論していた。武田瑞佳裁判長は「様々な可能性があったが、労働能力を制限しうる程度の障害があったことは否定できない」とした上で、様々な技術で障害の影響を小さくできるとして平均賃金の「85%」が相当とした。

判決はまず、安優香さんについて「学習に支障はなかった」と認定。将来様々な就労可能性があったと評価した。一方で、「感音性難聴」があり、コミュニケーションが制限されうることも指摘した。その上で、安優香さん特有の事情と、聴覚障害をめぐる就労状況の「将来予測」をあわせて検討した。判決は、聴覚障害者の大学進学率が上がっている▽音声認識アプリなどの技術革新がある▽障害者権利条約の批准をふまえ、必要かつ合理的な配慮がされなければならないという理念が社会に浸透することが予想できた」と言及。それらを元に、事故があった2018年の聴覚障害者の平均収入(平均賃金の約7割)より高い85%が妥当と結論づけた。

子どもの逸失利益をめぐっては、最高裁が1964年に「経験則と良識を活用し、できうる限り蓋然性のある額を算出するよう努める」との指針を示している。障害のある子どもの場合は低く算定されることが多かったが、近年は障害の実態や就労環境の変化を丁寧に評価する判決が出始めた。今回の判決も障害をめぐる社会情勢の変化を踏まえて85%としたが、遺族が訴えてきた「健常者と同水準」はかなわなかった。安優香さんの父・努さん(50)は「裁判は結局、障害者差別を認めた」と悔しさをにじませた。原告弁護団の1人で自身も重い難聴の久保陽奈弁護士は、判決が障害者を取り巻く環境の改善を認めながらも「(差し引かれた)15%の根拠がわからない」と批判した。