産み育てる権利 障害者に保障を 求める声相次ぐ
毎日新聞 2022年12月29日
北海道の社会福祉法人「あすなろ福祉会」が運営するグループホーム(GH)で、結婚や同居を希望する知的障害者が不妊手術や処置を受けていた問題の発覚後、障害者団体などから障害がある人が子どもを産み育てる権利を保障するよう求める声が相次いでいる。障害者の「子どもを産み育てるかを自分で決める権利(リプロダクティブ権)をどう保障するかが問われている。
神奈川県茅ヶ崎市のNPO法人「UCHI」が運営する小規模GHでは、知的障害者同士の夫婦2組が働きながら子育てをしている。NPO法人では、家計管理や行政への申請手続などを中心に支援しているが、夜に子どもが発熱したときに病院に同行することがある他、子育てに助言を得られるよう関係機関とのパイプ役を担う。牧野賢一理事長は、過去20年間で知的障害のある6組の夫婦の子育てに携わってきたという。「GHは暮らしの場で、利用者が結婚して子育てをすることは大いにあることだ。子ども含めた家族を一体とする支援体制が必要だ」と指摘する。
ただ、国の障害福祉サービス上、GHで出産や育児の支援は想定されていない。自宅で生活する場合、授乳や保育所の送迎などでヘルパーのサービスを受けることができるが、公的な支援は乏しい。
北海道のケースでは、障害者が不妊手術などに同意しており、施設側は「強制していない」と主張している。この点について、「全国手をつなぐ育成会連合会」の久保厚子会長は「知的障害者の恋愛や性のことは学校や会社などで制限されたり、親が反対したりすることがまだよくある。親や周囲がタブー視して、きちんと性教育をしていないから、心配して駄目という。結婚して子どもが生まれてからも、支援する仕組みがないから反対するのだ」と問題の背景を解説する。
障害者施策の普及啓発を図るNPO法人「DPI日本会議」は「国は障害者のリプロダクティブ権を保障し、一刻も早く優生思想のない社会にするための施策を講ずるべきだ」との声明を発表した。
施設側の対応を批判するのは、旧優生保護法被害者北海道弁護団の事務局長を務める小野寺信勝弁護士だ。「施設側は強制ではないといっているが、不妊手術を提案すること自体が問題だ。利用者が本心から同意したのかどうかは疑わしい」と指摘する。