知的障害者の子育て グループホームが支援…結婚、子育ては自立した人にしか許されないの?

2023/02/27

読売新聞 2023年2月22日

北海道の社会福祉法人が運営する知的障害者のグループホームで、利用者の男女が結婚などをする場合に不妊・避妊処置を求められていたことが問題になった。グループホームでの子育てを支えている事業所は少ないのが現状だ。現場の取り組みと課題を追った。

川崎市の小林守さん(36)と聡恵さん(27)夫婦はNPO法人「UCHI(うち)」が運営するグループホームで暮らしている。現在2人の子どもを育てている。2人は共働きだが、聡恵さんはいまは育休中だ。UCHIの事務所がある一軒家に子どもを連れて毎日のように立ち寄り、他の利用者たちと夕飯を共にしている。計算が苦手な夫婦にとって、職員から受ける家計管理についての助言は大きな支えになっている。

同NPOの牧野賢一理事長は、約20年前から6家族の子育てを支援してきた。子育て支援はグループホームのサービス外であるため、直接子どもの面倒を見るのではなく、地域の保健師や行政の子育て関係の窓口などと夫婦をつないで、支援や配慮を受けられるように尽力し、制度の隙間を埋めてきたという。支援を始めた当初、行政の職員から「生ませないよね」という言葉を受けるなど、周囲の理解は十分とは言えなかった。牧野理事長は「結婚や子育ては、自立した人のみに許されるという価値観が、障害のある人たちの願いを阻んできた。人として当たり前の思いを受け止めて、実現のために支援することが大切だ」と話す。

長崎県雲仙市の岩本友広さん(46) 朋子さん(48)夫婦と長男裕樹さん(17)は、社会福祉法人南高愛隣会が運営しているグループホームで暮らしている。裕樹さんは平日は特別支援学校の寄宿舎で生活している。友広さんは「近所の人も含め、みんなが支えてくれる。家族がいて幸せ」と語る。

同法人は知的障害者の「愛する人との暮らし」を支援する事業「ぶ~け」を、自主的に2003年から続けている。会員制の出会いの場を設け、結婚、出産、子育てなどの相談にのり、サポートする。子育て中の家庭に泊まって、夜泣きの大変さなども体験してもらう。子育ての苦労や責任を知った上でカップルが出産を決意すると、手助けしながら応援していく考えで運営している。これまでに岩本家を含む8家族の子育てを支援してきた。裕樹さんが幼いころは、職員が定期的に訪問し、ミルクの温度調整や飲ませ方なども助言したという。同法人の松村真美常務理事は「利用者の子育て支援を法人で独自に行うのは、財源や人員の確保で負担が大きい。国の支援があればありがたい」と話す。

厚生労働省によると、知的、身体、精神の障害がある人を対象としたグループホームの事業所数は全国で約1万1000で、約16万人が利用している。利用者の子育てへの支援はない。子育てをする際は、グループホーム外に住み、障害福祉や母子保健などの既存制度を利用しながら生活することが想定されているからだ。このため、グループホームで暮らしながら子育てを希望する人は制度のはざまに置かれてきた。北海道のグループホームで起きた問題について、同省は1月「サービスの利用条件として避妊処置を求めたり、強要したりすることはあってはならない」とする通達を出し、障害者の人権や意思を尊重したサービスを提供するように求めた。ただ、制度が子育てを想定していない以上、支援は事業者独自の取り組みとならざるを得ないのが現状だ。東京家政大学の田中恵美子教授は「障害の有無にかかわらず、誰かを好きになることや子どもを持ちたいと思うことは自然なことだ。それを阻む社会の偏見や、制度の不備が当事者を追い詰めている」と指摘する。