旧優生保護法訴訟 除斥期間制限し、国に賠償命じる 熊本地裁判決

2023/02/27

毎日新聞 2023年1月23日

旧優生保護法下で不妊手術や人工妊娠中絶を強制されたとして、熊本県内に住む渡辺数美さん(78)と川中ミキさん(76)=仮名がそれぞれ国に3300万円の損害賠償を求めた訴訟の判決で、熊本地裁は23日、2人に対して計2200万円を支払うよう国に命じた。旧法を違憲と判断し、20年で賠償請求権が消滅する「除斥期間」を適用しなかった。中辻雄一朗裁判長は「除斥期間の適用は著しく正義・公平の理念に反する」と述べた。1審判決で国の賠償責任を認めたのは初めて。

全国10地裁・支部で起こされた同種訴訟19件のうち、すでに1審判決が出た7件は、除斥期間の適用などを理由に原告の訴えを退けていた。しかし、2022年2月の大阪高裁判決と同3月の東京高裁判決は除斥期間の適用を制限し、国に賠償を命じていた。

渡辺さんは幼少期に「変形性関節症」と診断され、10歳のころに本人の同意なく睾丸を摘出する手術を受けさせられたとして提訴。川中さんは第2子を妊娠していた24歳のころ、第1子の障害を理由に中絶と不妊手術を強要されたとして訴えを起こした。半世紀以上前の不法行為について、賠償を請求できるかが主な争点だった。

判決は、旧法が規定した障害者らに対する強制的な手術について「差別的な思想に基づき、極めて非人道的だ」と非難。自己決定権を侵し、幸福追求権や法の下の平等を定めた憲法13条・14条に反すると判断した。その上で除斥期間の適用について、国が➀極めて強烈な人権侵害を行った②約半世紀にわたり適切な対応や救済措置をとらず、差別や偏見を正当化・固定化した③救済法の施行(2019年4月)まで誤りを認めなかった――などの事情を挙げ「羞恥、後悔や自責の念、負い目や恐れを抱えていた被害者にとって、賠償請求権の行使が長期にわたり事実上不可能だったのは無理からぬことだ」と判断した。また、対象者の手術時資料が残るのは約2割にとどまるなど、国ですら実態解明が容易でない状況に陥っており、除斥期間を適用する前提の一部を欠いていると説明。「国が明らかに憲法に違反する法律を制定して政策を推進し、国民に重大な損害が生じた以上、除斥期間の適用は慎重であるべきだ」とした。結果として、国と被害者との間で信義則の観点などから、見逃しがたい重大な問題が存在すると指摘。賠償請求権が消滅せずに提訴できる期間は救済法施行後、被害者が国による被害を客観的に認識してから3年以内という目安を提示した。原告の2人は施行前に提訴していた。

原告側弁護団の徳田康之弁護士は「救済の幅を広げる画期的な判決だ。望みうる最高の理由を示してくれた」と評価した。