将来の可能性 娘にもあった 障害者の逸失利益「健常者と差付けないで」

2023/02/23

朝日新聞 2023年2月19日

聴覚支援学校に通っていた井出安優香さん(当時11)が2018年、大阪市生野区で重機にはねられて死亡した事故で、将来得られたはずの「逸失利益」をどう算定するかが争われた訴訟の判決が27日、大阪地裁である。裁判実務では、障害がある場合低く算定される傾向がある。原告側は「健常者と同様にすべきだ」と訴えている。

両親と兄が2020年1月、重機の運転手や当時の勤務先を提訴し、賠償を求めている。安優香さんは、授業に積極的に取り組み、翌週には漢字検定を受ける予定だった。学年相応の学力があり、補聴器を使って口話でコミュニケーションをとれた。音声認識アプリなどの技術の発達・障害者の就労環境の改善も見込まれるとし、原告側は訴訟で健常者と同様に算定すべきだと主張した。

提訴から3年、両親は「障害の有無に関係なく、誰にでも将来の可能性がある。前向きで公正な判決を下してほしい」と話す。

逸失利益は、事故などで亡くなったり、後遺症を負ったりした人が、将来得られたはずの収入を指す。被害者が就労者の場合、事故前の収入や「あと何年働けたか」などを根拠に算定されることが多い。一方、子どもの場合は将来どんな職業に就くかが見通せないため、逸失利益が認められない時代もあった。だが1964年、最高裁は「できうる限り蓋然性のある額を算出するよう努める」と判示。現在では、平均賃金に関する国の統計を元に算出されるのが一般的。ただ、裁判例では障害がある場合、逸失利益が低くされることが多い。障害の程度、学力やコミュニケーション力などを踏まえると「健常者と同じように働けたとは言えない」などと判断されるためだ。厚生労働省の2018年の調査では、聴覚障害者の平均賃金は全労働者の約6割。今回の被告側もそう反論している。一方、近年では、障害者雇用や就労支援が徐々に変化する社会情勢から、より高い割合を認めた例もある。