障害者の情報格差 新法でどう変わる 解消に向けて国・自治体に施策を講じる責務

2022/12/13

朝日新聞 2022年11月29日

聴覚や視覚などに障害がある人が直面する「情報格差」の解消を目指す「障害者情報アクセシビリティ・コミュニケーション施策推進法」が5月に施行された。先行する米国に約10年暮らし、自身も聴覚障害がある大杉豊教授(筑波技術大)に聞いた。

1991~2000年に米国で暮らしていたが、当時からほぼ全てのテレビ番組に字幕がついていた。多くのCMも字幕付きだった。米国では1990年に世界に先駆けて障害者差別を禁止し、障害のある人の社会参加を権利として認める法律(ADA法)が制定され、早くから「合理的配慮」がされたのだ。日本で昨年公共インフラとして始まった、聞こえる人と聞こえない人が会話できる「電話リレーサービス」も、当時から文字通訳として利用できた。

モノづくりやサービスについて日本は、誰でも使いやすくデザインされた「ユニバーサルデザイン」の段階だが、さらにすすんで、障害者らが消費者として参加して考える「インクルーシブデザイン」がある。アカデミー賞作品賞に輝いた映画「コーダ あいのうた」はインクルーシブデザインによって作られた作品だ。手話言語の監修に企画段階から当事者が入っている。

新法は、国や自治体の施策を講じる責務や、事業者が施策に協力する努力義務が規定された。これまで障害者側が行政に申請して、手話通訳を派遣する制度が使えるようになっていたが、これからは行政自らが施策を講じるようになっていくだろう。たとえば病院に行くとき、ろう者から申請しなくても病院側が率先して手話通訳を用意し、提供することが望まれる。合理的配慮のコスト面も課題だったが、新法ができ予算をあらかじめ確保していくことが求められ、対応が進むと期待できる。コストが多少かかったとしても、障害者の社会参加が増えることで、経済を含め社会全体の発展にも貢献できることをもっと認識してほしい。

この法律の施行によって、障害者の情報アクセシビリティー(取得・利用のしやすさ)が社会全体の課題であるということをもっと啓発していってほしい。