発達障害 私らしく働く 

2022/11/16

朝日新聞 2022年10月28日

厚生労働省の調査(2016年)では、国内で48万人以上が発達障害の診断を受けたと推計された。就労の場でつまずくことも少なくないが、障害の特性を理解することで再出発につなげた人もいる。障害特性を生かした人材育成を試みる企業も出てきた。

大学院を卒業して製造業の会社に就職した男性(32)は、組み立て工場に配属された。手を抜いていないのにミスが続き、「最初だから」と温かかった周囲からも怒鳴られるようになった。結局、翌年7月に退職した。精神科で「広汎性発達障害(現在の分類では自閉症スペクトラム症)」と診断された。障害があることをすぐには受け入れられなかったが、もう一度働きたいと、同年12月「就労移行支援」の事業所に通い始めた。障害者の就職を専門家らが支援する福祉サービスだ。訓練には単純作業も多く、「社会人経験もある自分がこんな訓練をする必要があるのかと思った」。でも、様々な作業をこなすことで、自分の特性を初めて理解できた。男性の場合、発達障害が原因で「過集中」に陥りやすく、集中力がすぐ切れる。最初の職場でミスを繰り返した原因がやっとわかった。男性はいま、障害者雇用制度を利用して自治体職員として働く。「過集中を避けるために1時間に5分程度休憩する」などの配慮を職場に求め、働く自信が少しずつ戻ってきた。「障害があっても職場の理解と多少の配慮があれば、あとは自分が努力できる。葛藤もあったが、自分を理解できてよかった」

人材サービス大手のパーソルが障害者雇用を促進するために設立した特例子会社、パーソナルチャレンジは2019年、ITスキルの習得に特化した就労移行支援事業所「ニューロダイブ」を立ち上げた。大学生の就職を支援する中で、高学歴とされる学生でも発達障害が原因で就職につまずくことがあると気づいたからだ。コミュニケーション能力に課題はあっても、特定の分野に極めて強い関心を示したり、非常に高い集中力を発揮したりする学生が多くいた。事業責任者の大浜徹さん(43)は「全ての項目で80点を取れなくても、ある分野なら120点が取れる。そんな『尖った人材』が埋もれてしまっていた」と振り返る。企業が事業のデジタル化を進めようにも人材が不足している現状も追い風になった。学習は難易度が高く脱落してしまう利用者もいるが、狙いはあたり、AIなどの先端技術をゼロから習得した人材を多数輩出した。

発達障害は、自閉症スペクトラム症(ASD)や注意・欠如・多動症など複数の症状を含む。早稲田大学教育・総合科学学術院の梅永雄二教授(発達障害児臨床心理学)は、「就労に課題が最も多いのが、人間関係を築きにくく、優先順位付けなどが苦手なASD」と指摘する。障害者雇用は身体障害者に対するニーズは高いが、発達障害者の雇用は及び腰だと指摘。専門知識を持った調整役の必要性を訴える。「本人の特性を理解して適切な場所に配置できれば、企業の大きな戦力になり得る」と話す。