障害者 地域への移行 減速の現実 「施設に多くの人。やまゆり園事件を経て考え直したことは」国連委の問い
朝日新聞 2022年10月3日
障害者権利条約の取り組みについて、国連の委員会が初の対面調査を実施し、日本政府への勧告が示された。障害者が施設から地域での生活に移る「地域移行」が進まない現状が指摘され、当事者らから改善を求める声が強まっている。
認定NPO法人「DPI日本会議」の副議長、尾上浩二さん(62)は、8月下旬の審査でニュージーランドの委員が、「津久井やまゆり園」での事件を挙げて、日本政府に問うた言葉が忘れられない。「事件を経て、このような施設で暮らす人たちがたくさんいることについて考え直したことはあるでしょうか」。現状を鋭く突く場面だった。自らも知的障害があるこの委員は、施設でのつらい経験から施設の閉鎖に向けて尽力してきたという。
日本は2014年に条約を批准。条約19条は「自立した生活および地域社会への包容」を定める。だが、尾上さんは「地域移行」は批准以降、動きが加速するどころか減速している」とみる。厚生労働省によると、2009~2012年度は毎年5千人前後が移行していたが、2018年度は1525人まで減った。重い障害のある入所者の割合が高まり、高齢化が進んでいることが背景にあるとみられる。全国の施設入所者は2019年3月末時点で約13万人に上っている。
尾上さんが対日審査で見たのは厳しい現実だった。「委員が日本の現状をふまえ的確な質問をするのに対し、日本政府は現状の制度説明が中心。指摘を受け止め前へ進めようとする姿勢が見えなかった」
委員会は9月9日に勧告を示した。先の19条にも触れ、「障害のない人と平等に、施設から地域社会で自立した生活へ移行することを目指し、期限付きの数値目標、人材、技術、資金を伴う法的枠組みや国家戦略、その実施のための都道府県の義務付けを開始すること」を求めた。尾上さんは「障害者の権利を確立するための戦略的転換を求め、国家戦略や地域移行の仕組みなど何をなすべきかにまで踏み込んだ。行政、立法府、司法の三権がしっかり受け止めて政策に生かし、わたしたちも取り組みを進めることが、条約の完全実施につながる」と話す。