全国に広がる「注文に時間がかかるカフェ」 小学生も接客に意欲

2022/09/26

毎日新聞 2022年9月3日

吃音を持つ大学生らがスタッフを務める「注文に時間がかかるカフェ」(以下「注カフェ」)が全国に広がり始めた。家や店舗を借り1日限定でオープン。接客を通じて吃音への理解を広げるイベントだ。当事者同士が交流する会はあるが、吃音がない人との接点を持つための場作りは画期的。今夏は小学生による「注カフェ」も開かれた。

8月下旬、世田谷区のシェアハウスで「注カフェマルシェ」が開かれた。吃音のある小学3~5年生の男子児童4人が手作りの品物を並べていた。このシェアハウスでこれまでに2回、大学生らが接客する「注カフェ」が開かれていた。子どもたちから「自分たちもやってみたい」と声が上がり、実現した。客は事前に予約した家族連れら30人。主催者から受け取ったシールをお金代わりに支払う仕組みだ。「吃音で困るのはどんなとき?」「友達からまねされたときかな」。買い物しながら、子どもと客が吃音について話すこともある。

得意のプログラミングで作ったシールを販売した小学5年の中村輪さん(10)。客として注カフェを訪れたとき、どもってもすがすがしく接客をこなす学生らの姿を見て「自分もやってみたかった」という。シールは吃音への理解を呼びかけるものだ。小学4年の長岡桔平さん(10)は自作の4コマ漫画などを出品した。「言葉で伝えにくいことも、漫画ではたくさん表現できる」からだ。

吃音がある小学4年の次男(9)と訪れた向田巨季さん(44)は「一生懸命接客していた。吃音のある同年代の子どもたちと話すこともできた。次男にとって貴重な経験でした」と話す。人口の1%が持つとされる吃音は、連発(わわわたしは)、伸発(わーたしは)、難発(…わたしは)などの症状があり、特定の言葉が出せないこともある。学校でのいじめや職場での差別につながるケースが後を絶たず、症状を隠したり、他人との交流を避けたりする当事者も多い。向田さん自身も吃音があり「ずっとコンプレックスだった」。注カフェでは若者たちがどもりながら接客しており「堂々と振る舞う姿に衝撃を受けた」という。「親子で吃音について隠さずに話し合うことが大事だと思うようになりました」。自分にも吃音があると、次男に初めて打ち明けたという。

注カフェは2021年8月に東京で始まり、今年6月以降は富山県、神奈川県、三重県でも開かれた。計5回のイベントで吃音のある大学生ら17人が参加した。「接客できるかどうか葛藤を抱えていた参加者もいますが、達成感や自信を得ているようです」と話すのは、注カフェを主催し、自身も吃音がある奥村安莉沙さん(30)だ。店内ではスタッフがどもっても、せかしてはいけない。これは吃音者に対して求められる配慮で、客は自然に理解を深めて店を後にする。参加したことでコミュニケーションに前向きになった若者も少なくない。SNSなどで吃音への理解を広げる活動を本格化させたり、吃音のある子どもの交流会を開いたりする学生もいる。

運営費はクラウドファンディングで捻出している。各地のメディアで画期的な取り組みとして報じられ、多くの賛同者を得られた背景として、奥村さんは「当事者同士の交流にとどまらず、吃音のない人も気軽に参加できる開かれたイベントだからではないか」と分析する。注カフェを地方に広げているのは、若い吃音者が交流する場が少ないから。10月以降は兵庫県や北海道などでの開催を予定している。「全国で開いて、多くの若者を巻き込むことで吃音に対する理解をさらに広げていきたい」