強制入院や分離教育 廃止勧告 障害者権利条約 日本を国連審査

2022/09/15

朝日新聞 2022年9月14日

障害に基づくあらゆる差別の禁止や教育の平等などを定めた「障害者権利条約」について、国連の委員会が初めて日本の取り組みを審査し、勧告を公表した。障害者の強制入院や分離された特別な教育などをやめるよう求めた。審査では政府の対策が不十分な課題が明らかとなり、障害者らから改善を急ぐべきだとする声が上がった。

勧告では、精神科病院での無期限の入院の禁止や、施設から地域生活への移行を目指す法的な枠組みづくり、障害のある子とない子が共に学ぶ「インクルーシブ教育」の確立のために全ての障害のある生徒が個別支援を受けられるよう計画を立てるといった対応の必要性が指摘された。また、障害者の強制入院を「差別」とし、自由を奪うことを認める全ての法的規定の廃止、旧優生保護法下で強制不妊手術を強いられた被害者への謝罪・救済、なども盛り込まれた。

障害者権利条約は2006年に国連で採択、2008年に発効、日本は2014年に批准。今年8月下旬の初の対面での審査を踏まえて、9月9日に勧告が提示された。法的な拘束力はないが、政府は対策を講じるよう求められている。2017~2020年に障害者権利委員会委員を務めた石川准・静岡県立大名誉教授は「特に精神医療やインクルーシブ教育など課題が多い分野に踏み込んでおり、的を得た内容。政府は勧告内容と向き合い条約が求めるあるべき社会とも距離を埋めていくことが大事」と話す。

スイスまで赴き傍聴した人は、条約19条「自立した生活および地域社会への包容」をめぐる問に「日本の施設は高い塀や鉄の扉に囲まれたものではない、施設内で桜を楽しめる」と始まった日本政府代表団の回答に唖然とした。周囲はざわめき失笑が起きたという。地域での生活が当たり前ではなく入院せざるを得ない、鍵で管理される病室がある、などの現実があるのに、政府は視点がずれていると思ったと話す。OECDの2014年の報告書で日本は、精神病床数が加盟国平均の約4倍だった。精神障害の人が病院や施設で暮らすケースが多い。

教育については「法改正し、通常の学級に通うか特別支援学校に通うかは本人や保護者の意見を最大限尊重している」と文部科学省の担当者は説明した。しかし、特別支援学級から転校を希望して断られた例もある。インクルーシブ教育をめぐっては、2013年に学校教育法が改正された。障害のある子どもは特別支援学校に通うという従来の仕組みを改め、障害の状態や本人・保護者の意見をふまえて就学先を決定できるようになった。2016年から障害者差別解消法が施行され「合理的配慮」が明示された。しかし、もとめた配慮が十分に受けられるには至っていない。