心に響くことばの出所 荒井裕樹の生きていく言葉

2022/06/16

朝日新聞 2022年6月15日

今まで会った人の中で一番緊張したのは、脳性マヒ者の横田弘さんだ。障害者差別への激しい抗議行動で知られた団体「青い芝の会」の運動家として著名な人物だ。横田さんは言葉の出所に厳しかった。

20代の終わり頃、横田さんから聞かれた。「どうして障害者は差別されるんだと思う?」。私は脂汗を拭いながら、「現代社会は効率や生産性といった価値観を優先するので…」と、言葉を絞り出した。すると横田さんは、私をにらみ「で、君自身はどう思ってるの?」と重ねてきた。「現代社会」と話しているわけじゃない、「君」と話をしているんだ。「君」の言葉で答えなさい。そう諭された気がした。

私のずるさを見破られたのだ。障害者差別はおかしいと主張しながら、実際は障害者とのつき合いに慣れていない。慣れていないから分からない。分からないから不安で怖い。そんな感情を私は「現代社会」という大きな主語で粉飾し、ごまかそうとした横田さんはそこを見逃してはくれなかった。

矛盾した自分を見つめ、正直に絞り出した言葉でなければ、横田さんには届かなかった。自分を取り繕う言葉は結局、だれの心にも響かないのだと、横田さんから教わったように思う。