ゲノム医療 差別生まぬように

2022/06/02

朝日新聞 2022年6月1日

遺伝情報を使って病気の早期発見や治療につなげる「ゲノム医療」が国内でも進み始めている。一方、遺伝情報による差別を禁じる法整備が課題になってきている。当事者と研究者に聞いた。

ゲノム医療当事者団体連合会代表理事 太宰牧子さん(クラヴィスアルクス理事長)

ゲノム医療が進めば、今は治せない病気でも診断が付き、治療法が見つかると期待している。ただ、遺伝情報は本人のものにとどまらず、家族で共有するもの。適切に扱われ、誤解や差別が生じることがないようにしなければならない。わたし自身は遺伝性乳がん卵巣がん症候群(HBOC)がわかり、怖くて仕方がなかったが、情報を集めるうちに意識が変わった。遺伝性がんの当事者会を作らねばと活動し、会員も増え、改善した点はある。差別への恐怖を抱く人は今も多くいる。

遺伝性とわかっても就職や保険への加入に不利益がないようにする。個人情報は、適切に管理され医療や研究に活用される。そのための法整備が大事だと言い続けてきたが、なかなか進まない。次世代に何らかの不利益があるといけないから、遺伝性か調べる検査を受けられないという人たちがいる。国がルールを作り、守られていると感じられれば、多くの人が検査を受けよう、データを提供しよう、となる。新薬の開発につながり、個人に還元されていくのではないか。

現在は医療につながる遺伝情報は限定的だが、今後様々な病気のなりやすさがわかるようになると、大半の人にとって自分事になっていく。遺伝情報が国全体で共有されるよう、安心してゲノム医療を受けられる体制を整備してほしい。

ゲノム医療に関する厚労省の部会委員 横野恵さん(早稲田大准教授)

ゲノム情報の医療への活用に期待しているが、何が使えて何がだめなのかルールが不明確だ。このままだと差別的に使われる懸念がある。検査結果から、病気のリスクがあるとして保険料が高額になる、入れない、またゲノム情報を保険会社に知らせなかったとして支払いを拒否される、などのおそれがある。病気予防が目的の一つであるのに、調べれば保険に入りにくくなるのでは発展しないだろう。保険会社の経済活動の自由への配慮から、規制がある国でも工夫しているが、日本では法律も関係団体のガイドラインもない。

保険会社には、社会的な問題なので、オープンな場で議論を始めてほしい。情報を保護するための法律も必要だ。守秘義務の強化など既存法の中でできる方法もある。

日本医学界と日本医師会は4月、遺伝情報による不当な差別を防ぐ法整備などを求める声明を出した。動きが出ることを期待している。