聴覚障害への職場配慮 相談の場や支援もっと マスクやオンライン…コロナ下で意思疎通に苦労  

2022/04/13

朝日新聞 2022年4月4日

マスク着用で表情や口の動きがわかりにくくなり、聴覚障害のある働き手が苦労している。

関東地方の40代男性は2年前の春、「かつてなく追い込まれた」。音や声が聞き取りにくい障害があったが、相手の口の動きなどを組み合わせて理解しながら20年以上仕事をしてきた。2020年4月、配置転換で職場環境は一変。新しい仕事はオンラインで説明されたが字幕がなかった。筆談を求めることは難しく、周りから声をかけてもらえなかった。疲れて気分も落ち込み、体重が10キロ近く減った。「障害への配慮がない」と感じたが、会社側に「使えない」と思われるのが怖くて相談できなかった。2ヵ月後、「元の職場に戻してほしい」と伝えたが、月給を10万円近く減らすと告げられた。聴力障害者情報文化センター(東京)を訪れ、紹介された弁護士に相談、個人で加入できるJAMゼネラルユニオンに入った。退社して移った先では、年3回の面談で上司に相談できた。オンライン会議では文字起こしがある。「情報の入り方が変わり、仕事の機会が広がった」という。

障害者雇用促進法は、障害者の意向を十分に尊重して相談に応じるよう義務づけ、相談窓口の設置や援助者の配置などを求る指針もある。自らも聴覚障害があり、この問題に詳しい松田峻弁護士は「事業主が障害者と話し合って柔軟に対応する『合理的配慮』の考え方を浸透させることが大事だ」と話す。だが実態は相談しても拒否されがちだという。同法は、企業が合理的配慮を怠った場合の罰則規定がない。全日本ろうあ連盟は「実質的には努力義務。長時間の手話通訳を導入しても費用を十分助成している英国の取り組みを習ってはどうか」と指摘する。

聴覚障害者の労働問題に詳しい第一生命経済研究所の水野映子・上席主任研究員は「気軽に相談できる場や支援者が少ないことも課題だ」と話す。手話通訳者が待機するハローワークもあるが、時間は限られがち。障害と労働問題の両方に通じた弁護士や労働組合は多くない。JAMゼネラルユニオンには、手話ができる人が参加し、筆談も交えて相談にのっている。川野英樹副委員長は「何人もの聴覚障害者が集えば、共通の課題も把握できる。よりどころになるような労働組合を目指したい」と話す。