ダウン症育児 つなぐキーホルダー

2021/12/07

朝日新聞2021年11月25日夕刊

ダウン症の子をもつ家族同士で知り合いになりたい。でも声をかけられない。悩んだ名古屋市の山口郁恵さん(39)はある挑戦を始めた。

山口さんの長女・紗楽ちゃん(3)はダウン症だ。山口さんは「どう生きていくんだろう」と不安だった。実際に育てている人に聞きたいと思った。医師や看護師に相談したが、個人情報保護の壁があり、紹介してもらえなかった。4回手術したが、知り合った家族はゼロだった。インスタグラムで発信すると全国に知り合いができたが、近所に見つからない。

昨年9月、紗樂ちゃんを連れて病院に行くと、待合室で赤ちゃんを抱いている夫婦がいた。「ダウン症なのかな、でも違ったら…」。ダウン症児と受け入れていない夫婦なら、声をかけられて嫌かもしれない。そのまま帰宅したが、後悔した。「娘が生まれたばかりの頃は、同じ悩みを持つ人に『私を見つけて』と言いたかった。あの夫婦は声をかけてほしかったかもしれない」

ダウン症児を育てている目印になるものが必要だと思った。キーホルダー作りを決めた。名前は「ファインドミーマーク」。マークにはくまのイラストをあしらい、「Thank you for find me」の言葉を添えた。デザインも発注も自ら行った。ホームページ作りやブログはITに詳しい夫の周平さん(38)が担ってくれた。昨年末、無償で配ると告知、「トリクマCLUB」を周平さんと立ち上げた。コメントが次々と寄せられた。キーホルダーのおかげで声をかけられたケースも出たと聞いた。

今年1月、インスタを通じて知り合ったダウン症児の両親が、偶然同じ日に病院に行くと知り、キーホルダーを渡すことになった。初めて会った気がしない。昨年9月、待合室で赤ちゃんを抱いていた夫婦だった。「このキーホルダーを作るきっかけになったのはあなたたちじゃないかな」と伝えた。母親は「取り組みを知ったときから、うちらのことじゃないかと思っていた」と答えた。この母親はこの日、インスタにこう書き込んだ。「不安なのは本当に本当で、その時の私たちをそんな風にやさしい目で見てくれてた人がいて、こうやって形にしてくれて、それをあの待合室で直接受け取れた、ということにすごく感動して、帰ってからちょっと泣きました。まさに“見つけてくれてありがとう”」

11月25日現在、配ったキーホルダーは1811個になった。今年1年間で2千個は配れそうだ。

山口さんは活動のための賛同筋を募っている。ホームページhttps://torikumaclub.com/findmemark/