「発達障害理由、退職勧告」 保育士の女性、園を提訴 福岡地裁

2021/11/24

朝日新聞2021年11月11日

 発達障害があることを理由に勤務先の保育園から退職勧告を受けたのは不当だとして、福岡市の保育士の女性(39)が園の運営法人を相手取り、損害賠償を求めて提訴した。運営法人側は10日の第1回口頭弁論で、訴えを退けるよう求めた。

 訴状によると、女性は2018年4月から市内の認可保育園で働き始めた。保育士経験を十数年積んでおり、この園では1歳児クラスの担任として勤務した。2019年10月に発達障害と診断され、2020年6月26日に運営法人の代表に伝えた。代表は話し合いの場で、「(子どもを預かる仕事は)危険だ」などと、非常勤への転換を提示。翌日女性が断ると退職を勧められ、女性は6月29日に退職届を提出した。

 原告側は「女性は発達障害があるものの、これまで仕事上で問題となる行動をとったことはなかった」と主張。「労働者が障害者であることを理由に不当な差別をしてはならない」と定めた障害者雇用促進法に違反する退職勧奨があった、と訴えている。

 女性は、長女の診療に訪れた病院で、医師の話に理解が追いつかなかったため受診を勧められた。多くのことを一気に説明されると、のみ込むのが苦手な部分があった。「子どもを預かっている以上、ミスは許されない」と、メモをとるなど努力してきた。仕事の場の空気を読めなかったことがあり、発達障害があることを伝えると、運営法人の代表からすぐに報告しなかったことを問われた。退職を勧められ、納得できなかったが、「一身上の都合により」と書かざるを得なかった。主治医から「それはおかしい」と指摘され、弁護士に相談。初めて、労働者が障害を理由に不当な差別を受けないよう法律が定めていることを知った。発達障害のある長女も、将来自分のように悔しい思いをするかもしれない、そう考えて提訴を決意した。

 障害のある保育士に子どもを預けたくないと思う親もいるかもしれない。園がリスクを減らしたい考えもわかる。それでも「少しのサポートがあれば普通に働けることを理解してほしかった」「発達障害への差別や偏見、誤解がなくなり、誰でも働きやすい環境づくりが進んでほしい」と話す。