政見放送「手話も字幕も」 聴覚障害者団体要望 各党対応は

2021/11/19

朝日新聞 2021年11月12日

 選挙期間中に流れるテレビの政見放送、当事者団体は手話と字幕の両方をつけるよう求めている。手話は日本語とは別の言語であり、手話を母語とする人は字幕が理解しづらいからだ。しかし、政党により対応が分かれた。

 政見放送は、衆院選の小選挙区と参院選の選挙区では、放送局で収録する「スタジオ録画方式」と、候補者が収録する「持ち込みビデオ方式」を選べる。今回の衆院選では、小選挙区は「持ち込み方式」を選べば手話通訳と字幕がつけられたが、スタジオで録画する比例区では字幕は認められなかった。総務省は「字幕をつける設備が整っていない放送局もあるため」と説明。

 小選挙区は、公明党とNHK党以外の7政党は、党首らが話す共通部分と、各選挙区の候補者を紹介する部分で構成。共通部分は7政党すべてが字幕をつけた。手話は、立憲民主、共産、国民民主の3政党。候補者部分は、同じ政党でも選挙区ごとに手話と字幕、手話だけ、字幕だけ、など対応が分かれた。手話をつけた立憲民主党は、手話言語法制定を推進しており、「公共性のあるものなので、多くの方に見てもらえるようにした」と説明。共産党は「聴覚障害者の中にも手話がわかる人とわからない人がいる。政策を伝えるには両方必要」と話す。国民民主党は「手話がよい人もいれば字幕がよい人もいる」とし、色覚障害があっても見やすいよう字幕の色の組み合わせにも配慮したという。手話をつけなかった理由について、自民党は「聴覚障害者には字幕で対応している。手話を軽んじているわけではない」、日本維新の会は「配慮して字幕をつけている。手話をつけていない明確な理由はない」、れいわ新撰組は「字幕の漢字にルビを振り、より多くの人に理解して頂けるよう作成した」、社民党は「スケジュールの都合で手話通訳士が見つけられなかった」と説明。

 当事者団体の全日本ろうあ連盟は、聴覚障害者の参政権を保障するため「すべての政見放送に手話通訳および字幕を義務づける」ことを総務省に求めてきた。総務省は「公職選挙法に基づき、政党、候補者が任意で決めるもの」との立場。連盟の情報・コミュニケーション委員会の中西久美子委員長(58)は今回の政見放送を見て、「参政権が保障されているとは言えない。字幕だけの政党があったのは非常に残念」と手話で話した。

 手話は2006年に国連が採択した障害者権利条約(日本は2014年に批准)で言語として定義され、国内でも2011年の障害者基本法の改正によって言語と位置づけられた。しかし、聴覚障害者の中にも、母語として手話を身につけた人もいれば、学校で手話が禁じられ学ぶ機会がなかった人もいる。手話の方がよい人もいれば、文字の文章の方がよい人もいる。中西さんは「手話通訳も字幕もどちらもつけることが重要だ」と強調する。