着床前検査 実施に向けた課題は

2021/11/19

朝日新聞 2021年11月17日

 体外受精でできた受精卵の染色体を調べ、不妊治療の成功につなげる着床前検査。日本産科婦人科学会(日産婦)は、重い遺伝病がある場合などを除き検査を禁じてきた。しかし10月、条件付きで実施を認める方針を示した。「流産を回避する効果が期待できる」とするが、病気や障害がある人の排除につながりかねないとの懸念もある。

 日産婦は2000年から効果を調べる臨床研究を始めた。対象は①流産を2回以上経験②体外受精で2回以上妊娠できなかった③夫婦いずれかに染色体の形の異常がある、のいずれかに該当する場合だ。中間報告によると、参加した4348人のうち受精卵を子宮に戻せた人の妊娠率・流産率は一般的な体外受精よりもよい結果だった。ただ、63.4%の人は子宮に戻せる受精卵を得られなかった。このため、日産婦は全体で見ると「最終的に子どもを得られる可能性が高くなるかはわからない」としている。日産婦は11月10日には、学会ホームページで、臨床研究と同じ①~③のいずれかに該当する場合を対象とする見解案を公表した。

 検査には課題もある。受精卵の細胞の一部を採ることで生じるダメージの影響はわかっていない。検査の結果、染色体に変化のある細胞と変化のない細胞が混ざっているなど、受精卵を子宮に戻すか難しい選択を迫られる場合もある。検査についての正しい情報提供や相談体制の仕組みも重要になる。

 日産婦は、検査の前や、受精卵を子宮に戻す前に、遺伝カウンセリングを行うなど、一定の基準を満たした施設を認定、その施設に対し検査を認める方針だ。1回約50万円の体外受精費用に加え、受精卵1個に5~10万円の検査費用がかかり、高額な費用負担も課題だ。来年度から体外受精などの不妊治療に公的医療保険が適用される方向だが、着床前検査が対象になるかはまだ決まっていない。

 検査が広がっていくことで考えるべき倫理的課題はなにか、9月と10月の2回の公開シンポジウムで議論された。

 21番染色体が1本多いダウン症などは、受精卵の段階で排除されてしまう。日本ダウン症協会は「(胎児の疾患の発見を目的に広く実施する)マススクリーニングとして利用されることがないような制度設定が必要」との意見を表明した。検査では性別もわかるので、男女の産み分けも可能になるが、「検査の目的は着床率を高めて、流産率を減らすことであり、性別を知ることは目的に入っていない」として、患者にも医師にも性別を伝える必要はないことが確認された。

 検査について、東京都立墨東病院の久具宏司産婦人科部長は「胚の選択や改変へのハードルが下がり、どのような操作を加えてもかまわないという風潮になりかねない。国民的な議論が必要だ」と指摘した。