聴覚障害生徒に居場所

2021/11/18

毎日新聞 2021年11月9日

 聴覚障害のある人も健聴者と一緒に集まれる放課後の居場所作りを、と兄弟ユーチューバー「POCチャンネル」がクラウドファンディング(CF)をスタートさせた。

 4人兄弟のうち、2番目の長女を除く3人で活動。次男ナツさん(21)と三男マコさん(15)は生まれつき耳が聞こえず、動画では長男サエキさん(24)が2人の手話を通訳する。現在東京都内にろう学校は都立4校、私立2校しかなく、中学3年生のマコさんも学校まで電車やバスで1時間以上かけて通学している。放課後、各地域から集まる同級生はそれぞれの自宅に散り散りとなり、近所に住む友だちはほとんどいない。サエキさんは、弟が放課後自宅で1人テレビを見て過ごす様子を見てきた。「ぼくらが普通に同級生と公園であそんだり、部活に励んだりする生活も、弟たちにはハードルが高いんです」とサエキさん。次第に、コミュニティ―の狭さや経験を得る機会の乏しさを少しでも解決できる「聴覚障害者と健聴者が共にあそべる居場所を作れないか」と思うようになった。

 昨年8月、「居場所作りにはまず自分たちを知ってもらうことから」とユーチューバー活動を開始。「(一切れのケーキを食べるように)楽勝さ」という英語の慣用句「Piece Of Cake」の頭文字から「POCチャンネル」と名付けた。「耳が聞こえないあるある」など、聴覚障害者ならではの日常などを紹介。たとえば、新型コロナウイルスでマスク生活となって以後、いつ誰に何を話しかけられているかわからない問題を再現。店員に扮したサエキさんが「レジ袋要りますか?」と尋ねるも、ナツさんが反応できない様子をコント仕立てで配信。視聴者からは「笑いながら学べるから見ていて楽しい」といったコメントが相次いだ。ナツさんも「動画を通して手話に関心を持ってくれたり、聴覚障害を知るきっかけにしてくれたり、とてもうれしい」と笑顔だ。

 サエキさんは今年3月、大学で特別支援学校や小学校の教員免許を取得して卒業。教師になる道もあったが、コロナ下でさらに居場所を失っている子どもたちを思い、早急に居場所を作ろうと進路変更した。

 CFは誰でも1000円から支援でき、金額に応じたリターンも用意されている。当初の目標150万円を達成し、11月末までに260万円を目指している。サエキさんは「聴覚障害者の一面を知ってもらい、お互いが少しでも生きやすい世の中になったらいいな。そんな居場所を目指していきます」。

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