成人診療科へ橋渡し支援 ダウン症児の医療で手引き 専門医らが作成、公開

2021/10/28

大阪日日新聞 2021年10月18日

 ダウン症の子どもが、成人して小児科を離れた後も適切な医療を受けられるよう、専門家のチームが医療関係者向けの手引き「ダウン症候群のある患者の移行医療支援ガイド」をまとめた。日本ダウン症学会ホームページに掲載し、成人診療科への円滑な橋渡しに役立ててほしいとしている。

 ダウン症は生まれつきの染色体異常で、500人に1人の割合で生まれるとされる。発達がゆっくりで先天性心疾患を伴うことが多く、かつては短命だったが、医療技術の進歩により平均寿命は60歳を超えるようになった。現在国内に8万人程度いると推定されている。

 成人後もさまざまな疾患を抱える可能性があるため継続的な健康管理が必要だが、成長と共に受診機会が減り、医療機関との関係が切れてしまう人が多い。成人してから新たな受診先を探そうとしても、専門外として敬遠されるケースもある。

 中心になって手引きをまとめた東京都立北療育センター内科医長の竹内千仙さんは「多くの人が医療の空白に落ちてしまっているのではないか、と危機感がありました」と話す。2019年に発足した日本ダウン症学会で、竹内さんらは2020年、移行医療に関する検討チームを設置。米英などの指針を参考に、日本の実情をふまえて内容を詰めていった。

 完成した手引きはA4判19ページ。主な合併症の管理が落ち着いた後、12歳頃から移行に向けた支援を開始するのが望ましいとした。その後は年齢に応じて段階的に、成人後に予想される合併症や、本人が希望する生活設計について話し合い、具体的にどの医療機関が移行先の候補になるかなどを検討、20代のうちには成人診療科へ移行することが望ましいとしている。注意すべき合併症は年齢によって変わるので、時期によって受けるとよい検査や受診の頻度などを整理した。

 竹内さんの専門は脳神経内科。現在の病院に移り、ダウン症のある成人患者を診るようになった。当初はダウン症について詳しく知らず、海外の文献を調べながら手探りで診療した。出会った患者の何人もが医師から診察を断られた経験をしており、状況を改善したいとの願いを手引きに託したという。「ダウン症のある人が、社会の一員として暮らす地域で当たり前に医療を受けられるよう、今後も取り組みを続けたい」と竹内さんは話す。日本ダウン症学会理事長で小児科医の玉井浩さんは「ダウン症のある人を対象にした成人期の適切な医療指針がこれまで国内になく、重要な一歩だ」と話している。