全盲女性事故の逸失利益「全労働者平均の8割」 広島高裁

2021/09/12

朝日新聞 2021年9月11日

 高校時代に事故にあった全盲女性が、将来得られたはずの「逸失利益」について、健常者と同水準を求めた訴訟の控訴判決が10日、広島高裁であった。全国の労働者平均の「7割」とした一審判決を変更し、「8割」が妥当とする判断を示した。逸失利益をめぐっては、障害の重さに応じて健常者の平均賃金から差し引いたり、全く認めなかったりする判決もある。社会情勢や個別事情などを具体的に検討して「8割」とした今回の判決は、今後に影響しそうだ。

 金子裁判長は、厚労省の統計をもとに身体障害者の平均賃金は全国の労働者の約7割で、「障害のない人とくらべ、差がある」と指摘。しかし、ITを使った就労支援などの現状をふまえれば、今後同じ賃金で働ける社会の実現が図られていくことが見込まれるとした。その上で、原告の新納茜さん(30)は能力向上に積極的だったことを考慮、8割が妥当とした。

 未就労の子どもの場合、全労働者の平均賃金をもとに逸失利益を算出するが、障害がある場合は低くなることが多いという。損害賠償に詳しい立命館大の吉村良一名誉教授(民法)は「裁判所の変化を感じさせる内容で、意味のある判決。高裁レベルで、障害者雇用をめぐる社会の動向を具体的に示したのは前進だ」と評価する。一方で「サポートを受けながら健常者と同水準で職業生活できる可能性は十分ある。裁判所は全労働者の平均賃金で算出すべきだ」とも指摘した。

 新野さんは「8割では全然足りない。障害者が健常者と同じような扱いの社会になることを望む」と話した。代理人の大胡田誠弁護士は「配慮を受ければ健常者と同様に仕事ができる。10割という判決を望んでいたので残念だ」と述べた。