出生前検査 説明とケアが大切

2021/09/06

朝日新聞 2021年9月4日

 「念のために」と検査を受けた記者が直面した体験を紹介している。

 妊婦健診で通う産院で案内を見て申し込んだ。妊娠4ヵ月の時だった。「母体血清マーカー検査」を受け、ダウン症についてのみ「陽性」だった。胎児がダウン症である確率は基準値(295分の1)を上回る「189分の1」とあった。どう判断すればよいかわからなかった。確定診断のためには羊水検査が必要だ。約15万円と高額で、約300人に一人の割合で流産の可能性があると示された。何よりも、もし確定した場合どうするのか、「命の選別」という言葉が頭を回った。

 さらに困ったのは相談先だった。担当の産科医は話は聞いてくれたが、「最終的にはあなたが決めること」。困り果てて相談した自治体の保健師に教えてもらい、ある総合病院の「遺伝カウンセリング」にたどり着いた。専門医は丁寧な説明をしてくれた。夫と何度も相談し、最終的には羊水検査を受けなかった。ダウン症の子たちと交流のあった義母の「その時はみんなで育てましょう」と言うことばにも勇気づけられた。

 横浜市立大病院遺伝子診療科の浜乃上はるか医師は「本来、出生前検査は遺伝学的検査であり、関連学会のガイドライン上、『遺伝カウンセリングを実施されたうえで行う』となっている」と話す。遺伝カウンセリングでは検査前の十分な説明と、検査後のケアもする。だが、遺伝カウンセリングを行っている医療機関は少ない。2013年に始まった「新型出生前診断」では、日本医学会の認定を受けずに検査している施設が十分な遺伝カウンセリングやケアをしないまま結果だけを伝え、妊婦や家族が混乱するケースが報告されている。浜乃上医師の元には体制の整わない施設で検査を受け、「陽性」とでた妊婦が相談に来ることが少なくないという。「医療機関は十分な説明と相談の時間をとるべきだ」と話す。検査を考えている人には「大事な赤ちゃんのことだから、なぜ検査を受けたいのか時間をとって考えてほしい」と訴える。