難聴の娘亡くした悲しさ 裁判で上塗り 事故から3年

2021/07/07

朝日新聞 2021年2月8日

 大阪市生野区の交差点に重機が突っ込み、聴覚に障害のあった井出安優香さん(当時11)が亡くなった事故(2018/2/1)から3年。家族は悲しみが癒えないまま、裁判でも新たな心の傷を負っている。

 安優香さんは生まれつきの難聴で、補聴器をつけても大きな音しか聞くことができなかったが、小学部高学年では英語に興味を持ったり、事故の3ヵ月前にあった学芸会ではセリフが一番多い役を任されたりしていた。

 重機を運転していた男性(38)は、事故を巡る刑事裁判で懲役7年が確定。両親は昨年1月、男性と男性が働いていた会社に対して計約6千万円の損害賠償を求めて民事裁判を起こしている。裁判で争われているのは、安優香さんが将来得られたはずの収入である「逸失利益」。会社や男性側は、健聴者とくらべて思考力や学力が劣り就職も難しいため収入は一般女性の40%になると主張し、健聴者と同じだとする両親と対立する。父は「亡くなってつらいのに、さらに傷口を掘り下げられる思いだ」と感じている。

 両親も障害のある人が自由に職業を選べなかったり、給料の低い仕事に就いたりする現実は知っている。だからこそ、つらい思いをしないよう厳しく育ててきたし、学芸会・運動会も普通の子と同じようにこなしてきた。「11年の努力を認めてほしい」と話している。

 損害賠償に詳しい立命館大学の吉村良一教授は、「そもそもお金で測れない人の命を金銭で賠償するために、働く能力だけを見た極めて限定的な制度」と指摘。その上で、「命に差はないということをベースに、将来の可能性と障害者を巡る就労や社会の変化をしっかり見据えるべきだ」と話す。