コロナで変わる世界第3部 イノベーションの時代⑤ 障害者テレワーク拡大

2021/07/04

毎日新聞 2021年4月3日

 新型コロナウイルスの影響で社会のオンライン化が進む中、外出が困難だった障害者も新たな働き方を模索し始め、コミュニケーションの仕方も変わりつつある。

「対面苦手」カバー: 適応障害と診断され対人に強い恐怖を感じる社交不安障害がある女性は、約300キロ離れたインターネット関連会社「DMM.com」(金沢市)で在宅のまま働き始めた。会社が障害者法定雇用率を維持するために設立した部門で、身体・精神の障害者37人が働く。コロナ禍以降、この会社は全社的にテレワークを導入。これを受け、障害者の採用を全国に拡大した。女性はこの全国枠で採用された。入社試験もオンラインで進んだ。

 この会社の担当者は「リモートかを余儀なくされたが、恒常化しても問題ないと判断した。採用を全国に拡大することで優秀な人材も確保できる」と話す。社会のオンライン化が、「多様な働き方を求める障害者」と「多様な人材を求める企業」のニーズを結びつけた格好だ。

 一方、コロナ以前から障害者就労に取り組む企業も、現在のテレワーク普及には手応えを感じている。2015年から在宅就労事業を始め、現在約300人の障害者を雇用する「スタッフサービス・クラウドワーク」(相模原市)は「今後、在宅希望の障害者に対する就業支援事業も行いたい」と語る。

導入できぬ業種 雇用に影響:民間の就労支援会社が運営する「障がい者総合研究所」が222人に実施したアンケートでは「1回目の緊急事態宣言時、テレワークやローテーション勤務が導入された」と解答した人は62.2%だったが、「2回目」も同様に導入しているとの回答は57.2%にとどまった。同研究所の戸田所長は「テレワークが一時的措置として実施された面もうかがえる」と分析する。「距離の制約がないテレワークは障害者にとってメリット。コロナ収束後、元に戻ってしまえば就業環境の後退に等しい」と話している。

 障害者雇用は守られているのか。政府の労働政策審議会の資料によると、2020年6月時点で全国の就職率は、障害者の方が下げ幅が少なかった。厚労省の担当者は「ペナルティーがある法定雇用率制度によって、非常時でも障害者の雇用がある程度守られている」と推測する。ただ、情報通信業などの雇用数は上昇する一方、接客作業が多い業種では低下していた。障害者の働き方に詳しい慶応大の中島教授(応用経済学)は「リモートを導入したくてもできない業種もある。知的障害者は現場での単純作業を担うケースも多く、コロナの影響をもろに受ける可能性がある」と指摘し「障害者が福祉施設でサポートを受けつつ、仕事を受注できるような制度的枠組みも必要だ」と提言する。

聞こえなくてもビデオ通話 寝たきりでもコント動画配信:コミュニケーションのあり方にも変化の兆しがある。一般社団法人「ダイアローグ・ジャパン・ソサエティ」(東京都)が2017年からスタートした音声を使わずにコミュニケーションする楽しさを味わうイベント。本来会場に人を集めて行うが、コロナ禍で実験的にビデオ会議で実施。「以前から聴覚障害者はスマホのビデオ通話を多用し会話することが多かった。やっと社会が追いついてきた感じ」と、同社所属アテンドの松森さんが指摘する。「手話は視覚的な言語。映像でやりとりするオンラインと相性がいいのかも」とメリットを語る。

 距離に制約がない世界で、自己表現の場に新風を吹き込む人もいる。芸人あそどっぐさん(熊本県)は脊髄性筋萎縮症で寝たきりの生活を送るが、時には自身の障害を題材にしたコントもテレビやステージで披露していた。コロナで事態は一変、重度障害者は感染すれば重度化の危険が高いとされ、ステージはすべてキャンセルになった。「芸は続けないとさびる」。注目したのが「ユーチューブ」。昨年春頃から毎月3回、脚本・編集も自身でこなす自作のコントを配信。普段できない動きも動画では表現できるようになった。「ネット配信で、接点のなかった若い人たちの視聴が増えている。オンラインのメリットを感じる一方、観客と感情を共有できる生のステージの喜びも捨てがたいという。「コロナ収束後、『オンライン環境があるから障害者は家に引っ込んでいればいい』という風潮にならないか。それも危惧しています」

 社会のオンライン化が障害者を取り巻く環境も変えつつある中、人々は新たなつながりの形を模索している。