フロントランナー 九州大学病院の「吃音ドクター」 菊池良和さん(42歳) 言葉に詰まってもいい社会に

2021/05/31

朝日新聞be 2021年5月22日

 「吃音ドクター」として知られる菊池医師がどのような思いで「吃音ドクター」になったのか、自身の足跡、そして現在の診療の様子や、吃音のある人にどう対応したらよいかということまでを語っている。

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 幼い頃から吃音があり、小学生の時は日直の号令や国語の本読みが恐怖だった。中1の頃、吃音を診る医師がいないなら自分がなろうと決意した。面接がなかった九州大学を選んだ。大学3年の時、自助グループ「言友会」に入り、吃音の悩みを初めて分かち合えた。「吃音は治すべきもの」と思うことこそが悩みの出発点だと気づいた。研修医を終えた後、大学院で吃音と脳の関係を調べる研究を始めた。その頃、脳出血で倒れ重体になったが、「生きているうちに吃音について正しい情報を伝え、周囲の人の理解を進めたい」と診療に復帰し、著書も多数出版してきた。

 吃音があってもどうしたら生きやすくなるのか、今年から吃音と社会不安障害の関係を調べる研究を始めた。「吃音があっても人生は楽しい。誰もがそう思えるお手伝いがしたい」

 吃音は母親の育児がおろそかだったせいではないか、といった吃音に対する誤った理解が根強くあるので、科学的知見に基づいた吃音の知識を社会に広めたい。吃音への配慮は、発話に時間がかかっても少し待ってくれればよい。音読が苦手なら一緒に読む、電話対応が難しければ代わる、というぐあいに少し手伝ってあげればよい。特に子どもの場合は「どもってもいいんだよ」と伝え続け、話したい気持ちを育ててあげる。

 診療では、困りごとを聞き、特定の困った場面があれば言語聴覚士と相談して言語療法をすることはあるが、目的は吃音を治すことではなく、楽な話し方を知って、話す意欲を高めることだと考えている。吃音を悪いことだと思って隠そうとすると、会話の一番の目標がどもらないことになってしまい、話す内容を十分考えられなくなったり、人と話すのが怖くなったりする。吃音を操ろうとして、実は吃音に操られてしまう。

 吃音で深刻なのは二次障害だ。社会不安になることで能力が過小評価され、本来の力を発揮できなくなる。中高生の頃には吃音の悩みが増し、不登校や中退に至る子もいる。今年始めた研究では、中高生がどれくらい社会不安障害を抱えているのか、どんな支援ができるのかを調べる予定だ。