からかい乗り越え…高1で吃音告白、周囲が変わった

2020/12/06

西日本新聞 2020年12月6日

 言葉が出にくかったり、同じ音を繰り返したりする吃音、周囲の理解や支援が得られず自ら命を絶つ人もいる。吃音がある大学4年の亀井直哉さん(22)は音読の授業や同級生たちのからかいに悩まされたが、周囲に吃音のことを公言することで理解を広げ、乗り越えてきた。目標は言語聴覚士。吃音に悩む仲間を支える存在を目指す。

 亀井さんが自分の発話に違和感を持ったのは小学校高学年。「吃音」という言葉を知ったのは中学3年の冬。知ったからと言って、状況は何も変わらない。

 高校1年の夏、九州大学の吃音外来を受診した。医師の菊池良和さん(42)や言語聴覚士と発話練習をした。高校でもからかわれることは続いていた。言語聴覚士に相談すると「皆に吃音のことを話してみない?」と提案された。数日後、亀井さんは教壇に立った。担任が「彼の話し方に違いがあるのは気付いていると思う。吃音という一種の病気だ。からかったりまねしたりすることはやめよう」と語りかけた。亀井さんは「よろしくお願いします」と声を絞り出した。放課後、心配とは裏腹に友人は普通にの接してくれた。心を覆っていた分厚い雲が晴れるようだった。

 高2の秋、生徒会に入った。新旧メンバーの交代式、約800人の前でマイクを握った。「このたび書記を…」と言おうとしたが「こ、こ、こ…」。会場から笑い声が漏れた。とっさに口から出た。「この話し方はわざとじゃなくて吃音という病気です。一生懸命頑張りますのでよろしくお願いします」。笑い声はすっと止まり、拍手が起きた。以後学校でからかわれることはほぼなくなった。

 吃音と感情がどう関係するか知りたい、と久留米大の心理学科に進んだ。同じ学科の1年生向け講義で、みなに吃音を打ち明けた。福岡市の自助グループ「福岡言友会」にも加わった。さまざまな年齢や職業の仲間が大勢いて、「皆、それぞれの場所で頑張っている。刺激になる」

 亀井さんは卒業論文で、聞き手が吃音の知識を持つことにより、吃音がある人の発話やその人物への印象がどう変化するか研究している。まず吃音のことを伝えずに当事者の音読の録音データを聞かせ、その印象を40項目8段階で回答させた。その後、吃音の症状や悩みを説明、再び音声を聞かせて回答の変化を分析した。亀井さんによると、説明後は外向性や信頼感などで得点が向上、「説明の効果があったと考えられる」という。

 卒業後は言語聴覚士の資格を取得できる大学に改めて進学するつもりだ。「吃音になっていろんなことを経験した。その経験と知識を生かし、発達に悩む子どもたちを支えたい」