障害ある子の入試、デジタル化に壁 読み書き苦手、授業はキーボードOKでも

2020/11/23

朝日新聞 2020年10月27日

 デジタル庁創設を掲げた新政権のもと、教育のデジタル化が急速に進もうとしている。だが、読み書きに障害がある子たちには入試の壁はまだ高い。

 滋賀県の公立中学3年の男子生徒は、小学5,6年で何百ページもある本を読んだ。しかし、文字を書くことが苦手だ。おかしいと感じたのは小2の時。漢字テストは10問中1問正解がやっとだった。母親が相談しても、授業を乱すこともないため「これくらいの子はいる」と言われてきた。だが、小4でノートをとることに疲れ、一時的に不登校に。「書字障害」と診断を受け、デジタルカメラとテキスト入力専用の「ポメラ」を使って小6まで学んだ。「デジタル機器を早くから使わせてもらったおかげで学習の遅れはなかった」と父親は合理的配慮に感謝する。中学は、特別支援学級を希望。授業はすべて普通学級で受け、ノートはiPad、定期試験は学校のパソコン使用を認めてもらった。校長は「キーボードやスキャナーを使うこと以外は、他の子と何ら変わりない。学習面も優秀で、友だちもたくさんいる。進学校の高校から大学に進める学力は十分にある」と言う。

 両親は、中2から高校の説明会などを回り、入試や授業でICT(情報通信技術)での合理的配慮をしてもらえるか相談した。男子生徒はiPadを持参して使い方を高校の先生たちに披露した。「これはすごい」と興味を持たれるが、入試となると「授業は使えますが、入試は…」と顔が曇る。母親は「ICTに積極的な高校でも、入試や定期試験ではちゅうちょする。教育のデジタル化への壁はまだ高く厚い」と話す。

 全国的には、書字障害でも配慮を受けて、進学校や有名私立校、国立大などに進んだ生徒もいる。国ではコンピューターでの入試も検討されている。中学校長は「肢体障害には車いす、視覚障害には点字入力が許されている。デジタル機器を使えないのは不公平では。高校にも認めてもらえるよう動いていく」と言う。

 岩手県の山口幸強さん(18)は、今年1月の大学センター試験で「全教科に代読」の合理的配慮が認められた。学習障害があり、読み書きに時間がかかる。中学の定期試験では、別室で時間延長と計算機持ち込みを認められ、高校入試は別室で時間延長のみだった。高校の授業はiPadを使えた。代読は「普段から練習していないと難しい」と、塾で練習した。入学した岩手大学の支援担当者は「授業中の代読は難しい。iPadでの音声テキスト読み上げなら前例もあり、端末の使用許可も出た」とする。コロナ禍で対面授業が始まったのは今月。授業ではiPadを使い、試験の時間延長などは認めてもらった。

 「合理的配慮」は、2016年に施行された障害者差別解消法に、義務・努力義務として明示された。大学入試センターでは、毎年夏に「受験上の配慮案内」を公表。出願前から配慮申請を受け付け、2020年1月の入試では発達障害388人を含む計3119人への配慮が決定した。そのうちタブレット端末での問題表示は4人。パソコンによる解答入力は2019年は2人で2020年はいなかった。パソコンによる音声読み上げの許可例はまだない。