新型出生前診断 本格議論へ

2020/11/14

朝日新聞 10月26日

 妊婦の血液で検査する新型出生前診断(NIPT)について、厚労省が28日新たな検討部会を立ち上げる。部会は、産婦人科や小児科などの医療関係者の他、法学や生命倫理、障害者福祉の専門家など約20人で構成。新指針だけでなく、妊婦への相談支援体制、小児医療や福祉施策との連携などについても検討する。

 NIPTは十分なカウンセリングの実施などを前提に、大学病院など109施設に限定して実施が認められてきた。新指針では、認定制度に合格し遺伝学の知識を備えた産科医がいるなどの条件を満たせば、小規模な医療機関でも検査を受けられる可能性があり、約70施設が増える見込み。検査が受けやすくなる一方、「命の選別」につながる可能性があり、慎重な声もある。認定施設でつくる「NIPTコンソーシアム」の調査では、検査後に羊水検査などで陽性が確定した妊婦の約9割は中絶を選んでいる。

 新指針が明らかになったのは今年6月。検査の需要が増える中、血液さえ採取できれば簡単に検査できるため、美容外科などの認定外施設にも拡大。新指針の背景には、こうした実態に歯止めをかけたいという日本産科婦人科学会(日産婦)の強い思いがあった。実は、日産婦は昨年3月にも指針の改定案を公表したが、日本小児科学会や日本人類遺伝学会が「不十分な体制のもとに安易に行われるべきではない」と反発。厚労省の下で議論することになっていた、ところが、新型コロナウイルスの流行のため議論は途中で止まってしまった。水面下では学会間で調整が重ねられ、日産婦が見直した新指針を2学会が合意した。

 ダウン症の娘の父親で、日本ダウン症協会の理事でもある大阪医科大の玉井浩・小児高次脳機能研究所長(小児科)は「検査を受ける家族に、不安な情報が多く伝わっている」と現在のNIPTのあり方に疑問を投げかける。親の主体的な選択を支援するために検査前後のカウンセリング体制はとりわけ重要とされるが、施設間に格差がある。「ダウン症の子は運動機能や知的な発達は遅いかもしれないが、心は決して遅れない。今のまま認定施設を広げるのは不安だ」

 2013年に認定施設になった横浜市立大病院遺伝子診療科の浜乃上はるか講師(産婦人科)は、「訪れるカップルの多くは遺伝カウンセリングの中で『なぜ受けたいのか』『受ける必要があるのか』をよく考えている」としたうえで、検査の拡大によって十分考えないまま検査を受ける人が増えることを懸念する。「当事者ではない人も含めすべての人が、本当に必要な技術なのかをもっと考えなくてはいけない」と話す。