患者を生きる  職場で  吃音1~5

2020/10/22

朝日新聞 2020年9月7日、8日、9日、10日、11日

 西尾公希さん(23)の体験を通して、「吃音」や吃音のある人の生きづらさを紹介している。

 西尾さんは4歳の時から言葉がつまることに気付いたが、傷つくことがありながらも「吃音は個性」と前向きに考えていたという。ところが大学4年生になって就職活動を始めると、面接で話せず、不採用が続き、「社会の現実を思い知らされた」という。

 吃音に詳しい医師、大阪市立大の阪本浩一・准教授(耳鼻咽喉科)を受診した。「もっと早く病院に連れて来ていれば…」と打ち明けた母親に、阪本さんは「お母さんのせいではありません」と言った。かつて吃音は家庭環境が原因とする声もあったが、近年は主に体質や脳の機能異常が原因とする報告が出ている。

 言語聴覚士からは「完治は難しいが、できるだけ楽に話す方法を一緒に見つけることはできるかもしれない。ただ、今までの発話スタイルを変えるには覚悟が必要」と伝えられた。受けていた採用試験の結果を待ち、不採用だったので、言語訓練を始めることにした。初めて本格的な検査を受け、重症度は6段階のうち重度にあたる「5」と判定された。訓練を開始したが、翌年の就活が始まるまでに治すのは難しいと感じた。主治医の阪本さんから「西尾さんの重症度であれば、障害者手帳を取得し、障害者雇用としての採用に応募する方法もある」と伝えられ、すぐに「お願いします」と応じた。

 吃音を個性ととらえてきた西尾さんにとって、障害者手帳をとることに違和感もあった。しかし、面接で話すら聞いてもらえない現実に直面し、「まずはスタート地点に立ちたい」と考えた。

 2016年に施行された改正障害者雇用促進法に基づく国の指針では、聴覚・言語障害がある人の面接は筆談でするなど「合理的配慮」を事業主に義務づけ、障害者手帳を持っていなくても対象になる。しかし、阪本さんは「社会の理解がまだ追いついていない」と感じている。西尾さんに対しても、採用面接での配慮を求める診断書を書いたが、不採用だった。「成人の吃音を完全に治すのは難しく、就職活動で大きな壁にあたり、引きこもりがちになってしまう人もいる」と話す。

 西尾さんも不採用が続いた頃はふさぎ込んだが、障害者手帳を取得した頃からようやく笑顔が戻った。「吃音も障害の一つなんやと思うと、楽になった部分があった」という。コロナ禍の中で続く就職活動に、西尾さんは障害者手帳を手に再び挑んでいる。

 5は情報編で、吃音は幼児期におよそ20人に一人の割合で発症すること、大人になっても続く人もいることや、原因や対応などについての情報を紹介。