「生きる」心の叫び ALS嘱託殺人 医師で患者の私は―

2020/08/07

朝日新聞 2020年8月1日

 8年前にALSを発症した医師の竹田主子さん(50)は、死を願った自身の経験を振り返り、患者への社会全体の支援を訴える。

 病気を受け入れるまでに発症してから4年かかった。診断を受けた当初、自分が無力で価値のないものに思えた。どんどん体が動かなくなるのは恐怖だし、人生に絶望する。私のせいで家族が今まで通り生活できないのも申し訳なく、生きていること自体が罪な気がし、泣き続けていた。

 傷つくことを言われ、「そんなに目障りなら死んでやる」と考えたり、「肺炎になっても治療はいらない。そのまま死にます」とカルテに書いてもらったことも。医師による自殺の手助けが法律で認められていたら、選んでいたかもしれない。

 一方、「子どものために生きなければいけない」と思ったり、アルバイトで介護をしてくれている医学生や看護学生に対し、「この経験が将来役立つだろうな」と、誰かの役に立てるという小さな喜びを感じたりと気持ちは揺れた。

 前向きになるきっかけは、24時間ヘルパーを入れて家族に迷惑がかからなくなったこと、視線で入力できるパソコンの導入で仕事や交友関係など世界が広がったこと。たくさんのママ友や医療チームにも支えられた。今の時代、ALS患者でも無限に活動的になれる。国内外を飛び回って活動する人、自ら介護事業所を立ち上げた人、子育てや孫育てをする人もいる。

 でも、大半の医師はこうした患者の心の動きや生き方を知らない。医学部では病気のメカニズムしか教えないからだ。そのことが、医師が自殺を助けることの合法化に反対する大きな理由のひとつだ。命を救うはずの医師に、人を殺す権限を与えてよいのか。

 人間は強い時もあれば、弱い時もある。もし患者が「死なせて」と発したら、なぜそう思うのか寄り添って耳を傾け、つらいことを解決する手段があれば全力でサポートしてほしい。様々な職種の協力や社会資源によって、医療で手に負えないことも支援できると知ってほしい。