ダウン症の息子と「幸せ」感じるまで

2020/08/07

朝日新聞 2020年7月30日

 日本産科婦人科学会は新型出生前診断を受けられる施設を増やす方針だが、胎児がダウン症だとわかった親の9割近くが中絶を選んでいる。3歳9ヵ月のダウン症の息子、十五くんを育てる西村淳一さん(48)も、生まれる前は「子育てが楽しい」と聞いても信じられなかったそうだが、今心から「十五の笑顔を見ると幸せ」と言う。

 不妊治療の末、ようやく授かった我が子だった。妻は40歳で妊娠。念のためにと新型出生前診断の説明を聞いた。異常の可能性を示すだけで、確定診断には羊水検査を受けなければならない、その場合300分の1の確率で流産するが、たとえダウン症だとしても、母子ともに命の危険はない。そう医師から聞かされ「我が子がダウン症でも、受け入れよう」と、検査を受けない選択をした。

 経過は順調だったが、妊娠30週を過ぎ、エコー検査で十二指腸閉鎖が見つかった。医師によると、ダウン症の子によくあり、30%の確率でダウン症かもしれないという。だが「自分たちは70%に入る」と信じていた。出産が近づくにつれ、十二指腸閉鎖の影響で羊水の量が異常に増え、羊水を抜くことになった。「どうせ抜くなら」と「ついで」に羊水検査を受けた。

 その結果、医師から渡された紙には99%以上の確率でダウン症であると書かれていた。「その瞬間、鉄の棒で頭を押さえつけられたような衝撃」を感じた。「不幸な家族になる。一家心中するんだろう」と頭をよぎった。ダウン症の子どもを育てている親のブログを読みあさった。「この子が生まれてきて幸せ」などの言葉も、その通りには受け止められなかった。

 帝王切開で産まれ、保育器に乗せられた息子と初めて対面、息子は泣きもせず周囲をキョロッと見渡すようにしていた。夜、新生児集中治療室ですやすや寝ている我が子が突然泣き出した。その声を聞いた瞬間、体中に衝撃が走った。「この子を何とかしてあげたい」。その衝撃は、告知を受けたときより何十倍も強烈だった。「この子とだったらやっていける。泣き声を聞き、自信が持てたんです」

 発達はゆっくりだが、3歳の誕生日には歩けるようになり、今は踊るのが大好きだ。いつも笑顔で、こども園では人気者という。

 西村さん自身は、検査が受けられる施設が増えることには反対しない。「正しい診断ができる施設が増えることはいいことだと思う。でも告知されたとき、ぼくのようにショックを受ける人が少なくなる仕組みがあったらいいなとは思う」「我が家は『30%の確率』と言われたときから少しずつ覚悟をしていたのだと思う。『心の準備ができるから』と、ポジティブに受けようと思う人が増えたらうれしい」