「尊厳死議論の前に本質理解を」 ALS患者で「FC岐阜」運営会社元社長が訴え

2020/08/07

毎日新聞 2020年7月27日

 難病の筋萎縮性側索硬化症(ALS)の女性が、面識のない医師2人に薬物を投与され殺害されたとされる事件。女性は安楽死を望んでいた形跡があり、金銭の授受も明らかになっている。安楽死や尊厳死を巡っては法整備の議論を求める声もあるが、ALS患者は「まずは病気や障害者の本質を理解してほしい」と、拙速な議論に警鐘を鳴らす。

 サッカーのFC岐阜を運営する「岐阜フットボールクラブ」の元社長の恩田聖敬(さとし)さん(42)は、2014年4月の社長就任直後にALSと診断された。しばらくは公表せず知名度アップや観客動員数増に尽力した。症状の進行は待ってくれず、車椅子生活を強いられるようになり、2015年末に退社した。

 恩田さんは事件後に自身のブログに次のように記した。ALS患者間に「安楽死の肯定派と否定派がいる」、亡くなった女性は「ALSでも幸せだと言っている患者がいることをどれだけ知っていたのだろうか。人工呼吸器をつけて寝たきりだが、退任後の現在もパソコンの音声ソフトを使って講演や執筆を手がける「まんまる笑店」の社長として活動を続け、東京五輪の聖火ランナーにも選ばれた。

 事件ではソーシャル・ネットワーキング・サービス(SNS)を通じて女性と医師が出会ったことが明らかになった。恩田さんは「SNSは凶器にも防具にもなる」「先輩患者からたくさんの防具を受け取り、大勢の方々に支えられて今の性格地番を整えた」「安楽死是非の議論ではなく、ALSという病気の本質、障害の本質を理解してほしい」と求める。

「生き地獄を味わいながら生き続けるか、生き地獄から解放されるために死ぬか?」恩田さんは二者択一ではない」と強調し、常に改善を模索したいと訴える。「我々はALSの本質を理解する医師や介護者の熱意によって普通に生きている。これが多数派になれば二者択一の考え方は消えると思う」と重ねた。

 「いじめや鬱で死にたいという人に、死なせてあげればという意見はなく、全力で生きる方向へ導く」と指摘。「ALSは適切な介助者たちがいれば普通に生きられる病気だ」。法整備されれば「解決策を考えることなく『じゃあ死にましょう』ということを法的に認めることになる」と危惧している。

 恩田さんは、ALS患者からの相談窓口(onda0510@icloud.com)を開設。「あなたはひとりじゃない!」と呼びかけている。Youtubeでも「きっと、どんな重度障害者でも『自分らしく生きたい』と思っている」と訴えている。